赤城智美さんコラム日々の生活と、食物アレルギーについて

12食物アレルギーを説明する力

公開日:2018年3月5日

7年前の3月18日のこと。「食物アレルギーの姪のことが心配で、避難所を探してようやく巡り合ったけれど、大根の水煮とご飯しか食べていなくて体調が悪い。食物アレルギーの食事支援をしてもらえないか」という電話がきました。お母さんは体調を崩して入院し、お父さんは家畜のことが気がかりで福島に残ったため、高校生の女の子一人、福島県の内陸に位置する避難所に親戚を頼って避難してきたのだそうです。

とにかく調理の際、調味料や卵などを入れる前に、野菜の水煮の状態の時に取り分けてほしいと説明したところ、話がうまく伝わらず、水煮の大根と白いご飯だけを毎日3食出されることになり、すでに5日間が過ぎてしまったというのです。

どうしてそんなことになったのかを詳しく聞いてみると、毎日提供される炊き出しは調理する人が日々入れ替わるので、最初は人が変わるたびに食物アレルギーのことを丁寧に説明していたけれど、話の半分も伝わらず説明するのに疲れてしまった。「水煮」のくだりを説明したら、そのことだけが人が変わる度に伝達され、今に至ったということでした。

彼女のアレルゲンは、ごま、卵、小麦でした。たくさんのつらいことが重なって、自分のことを説明するのもしんどくなってしまったのでしょう。親戚の家に移動できるようになるまでの2週間を想定して、総菜類を箱に詰めて送りました。その後も女の子の体調や精神状態についてお聞きしながら、彼女の周りにいる大人たちは何ができるかを親戚の人と話し合いました。

食物アレルギーのことを何も知らない人に、アレルゲンや調理の仕方、食べられるものなどを説明することは、平常時でも困難だと感じる「食物アレルギーの人」は多いと思います。間違ってアレルゲンの食物を食べてしまっても十分な医療支援が受けられない可能性が高い緊急時にこそ、食物アレルギーのことを理解してもらわなければならないのですから、道のりは遠いなあと思います。

そして、子どもたちが「周りに説明する力を身に着けること」「諦めない心を育てること」も、今まで以上に取り組まねばならないことだと思いました。震災の時に出会った高校生の女の子は、私たちに改めて大きな課題を教えてくれました。