カレーのみならず、世界でユニークな事業を展開するハウス食品グループ。国や地域により異なるニーズに対し、日本で培った強みと、海外の食文化と融合させる力とを掛け合わせ、新たな食シーンを創造し事業を拡大してきました。
私たちが掲げる4系列バリューチェーンの推進において、重要な役割を担う海外での事業展開を3つの事例を通じてご紹介します。
4系列バリューチェーンの詳細は「中期計画について」のページをご覧ください
中国に日本式カレーを
~複合的なアプローチ、
粘り強いマーケティングで浸透~
日本と同じ米食文化である一方、伝統的に多皿文化である中国で、どのようにすれば一皿完結型の日本式カレーを普及させることができるか――。食べたことがない日本式カレーの商品をいきなり販売しても、中国の人々に受け入れられません。日本の高度経済成長期に、まだ普及していなかったカレーを国民食にまで昇華させた成功体験を応用し、 "巨大な白紙地帯"の開拓に挑みました。
まず、日本式カレーのおいしさを知っていただくことが重要と考え、加工食品の製造・販売からレストランまでを手がけるグループの強みを生かし多くのタッチポイント(顧客接点)で複合的なアプローチを展開しました。
最初のタッチポイントは、1997年、上海でのカレーレストランの出店です。おいしさを知っていただくとともに、日本式カレーが受け入れられるかを探りました。そこで手応えをつかみ、レトルトカレーを発売、その後、2005年より「百夢多カレー(バーモントカレー)」の販売を開始しました。日本と同じ「家族みんなで食べられるマイルドなカレー」をコンセプトに、現地のニーズに合わせて、味・色み・スパイスの香りをアレンジ。そして、正しい調理方法とおいしさを知っていただくため、上海・北京・広州の大都市を中心に、店頭で年間3万食に上る試食販売を粘り強く、繰り返し行いました。
手軽につくれて、栄養バランスに優れ、子どもから大人までおいしく食べられる日本式カレーは、核家族化・共働き家庭が増える時代の変化とも合致し、販売は拡大。調達・製造・販売が現地で完結できる安定的な体制を生かし、沿岸部の大都市圏を中心に喫食経験は増加していきました。一方、大都市を離れると、喫食経験には伸びしろが多く存在し、浸透に向けたマーケティング活動を展開しています。
また、調理のオペレーションが簡単なことから、現地のレストランなど外食や業務用での取り扱いも増えており、カレーの原料としての供給が増加しています。大きな成長ポテンシャルを持つ中国事業が、スパイス系VCのグローバル展開を牽引していきます。
米国にTOFUを
~現地での多様な使われ方に適応した
商品開発~
当社はもとより大豆素材の魅力に注目し、1970年代に日本で豆腐や豆乳製品の事業化に挑戦したものの、本格的に拡大することができませんでした。大豆を使って商品を開発する技術・ノウハウを世界市場で生かせないか。そう模索していた時に、米国でTOFUを製造していた日系企業と出合い、米国での展開をスタートしました。当初は、アジア系やベジタリアンの人々を中心に支持を広げ、その後、TOFUが健康に良く、植物性で環境負荷が少ないということが多くの人々に認知され、市場はさらに拡大していきました。
米国で展開するTOFUは6種類の硬さを取り揃えています。アジア系のお客様は自国での食べ方がベースとなり、日本でいう絹ごし豆腐や木綿豆腐の硬さを好まれます。一方、新しい食べ物としてTOFUを受け入れるお客様は、現地に根づいた食シーンの中で、肉の代わりとして、調理しても形が崩れないようにさらに硬めのものや、スムージーの材料として最も柔らかいものを選びます。このような使われ方は、現場でのヒアリングや、発信されているSNSなどから日々情報を得ています。トライアルを繰り返し、食シーンから想定した調理方法とセットで提案し、適応していきました。
そして、広い米国で供給するべく、生産工程を工夫して65日の賞味期間を実現し、ロサンゼルスとニュージャージーの生産拠点から全米に供給する体制を構築しました。さらなる事業拡大をめざし、新工場の建設も計画しています。
米国では、若い世代を中心に気候変動やエシカル消費への関心が高まっており、加えて、アジアの食文化の広がりもあり、豆腐が使いやすいメニューが増えていることも追い風となっています。
2022年9月には、米国で豆腐や植物肉などの製造・販売を手がけるキーストーン・ナチュラル・ホールディングス社を当社グループに迎えいれました。米国での事業拡大、欧州での事業展開も見据え、TOFUを軸に植物由来食品(PBF)領域の拡充を図っていきます。
東南アジアにビタミンC飲料を
~スピード重視のブランド確立~
当社は2011年に、機能性飲料事業の拠点をタイに設立しました。すでに、インドネシアでのライセンスビジネスを通じて東南アジアでの潜在的なニーズは把握しており、特にタイは美容への関心が高く、ビタミンCをしっかり摂取できる商品が求められていることに着目したのです。
当時、タイでは、ビタミン入りのペットボトル飲料はありましたが、サプリメントのように、ビタミンを手軽に摂取することを目的とした瓶形態の飲料はありませんでした。そこで、日本で培った、おいしさと機能性を両立したビタミン飲料を安定的に生産する技術・知見を生かし、「ビタミンCをたっぷりとる」というコンセプトで「C-vitt(シービット)」を発売しました。
カレーやTOFUと異なり、現地には飲料メーカーが多く存在し、自社で生産を手がけても強みとなりません。また、販売においても、昔ながらの伝統的なマーケットも大きく、販売網を一から構築するには多くの時間がかかります。そこで、早期の事業展開を図るため、現地企業であるオソサファ社と合弁会社を設立。川上の製造と川下の販売はオソサファ社が担い、当社グループは強みであるマーケティング・商品開発・品質保証に特化しました。このスキームにより、事業化から10年で売上高は100億円を超え、ビタミンC飲料のトップブランドとしての地位を確立しました。
今後、タイにおいては、日本で販売している「1日分のビタミン」といったビタミンC以外の商品の開発など、深掘りを進めます。また、機能性素材系VCとして、2022年4月に設立したハウス食品グループアジアパシフィック社のもと、東南アジアの他地域でのビタミン飲料事業の拡大を図っていきます。