カレーが健康に及ぼす良い影響についての研究

日本の国民食とも言えるカレー。日本人は、平均的に月に2回ぐらいの頻度でカレーを食べているようです(自社調べ)。そんなカレーには健康増進に効果があるとされる様々なスパイスが用いられており、実際にスパイス由来の抗酸化物質や抗炎症物質が多く含まれていることから、健康に良い食品であると考えることができます。しかし、実際にカレーが健康に良いという証拠は、これまであまり多くありませんでした。
カレーの健康面での良さを明らかにして、お客様に「おいしいだけではないカレーの良さ」をもっと知ってもらいたい。ハウス食品グループはそんな思いでカレーの健康効果に関する研究に取り組んできました。
ここでは、ハウス食品グループが取り組んできたカレーの健康効果に関する3つの研究を紹介します。

カレーが健康に及ぼす良い影響についての研究

研究1 血管内皮機能改善研究

カレーには抗酸化物質を多く含むスパイスが豊富に使われています。そのため、「カレーを食べることで、酸化ストレスが低減され、健康に様々な良い効果をもたらすのではないか」と考え研究を行っています。
令和2年の日本人の死因は、第1位が悪性新生物(腫瘍)ですが、第2位と第4位に心疾患(高血圧性を除く)と脳血管疾患と、血管系の病気が並びます。これらは主に動脈硬化性の疾患であり、これらの疾患の予防は重要な社会課題の一つです。近年、動脈硬化の重要な危険因子として食後の高血糖が問題になっています。その理由として、食後の血糖値の上昇で生じる酸化ストレスによって血管内皮機能は低下し、動脈硬化が進展することがあげられます。そのため、各種食品と比べて抗酸化力が高いカレーを摂取することで酸化ストレスを除去することができれば、血管内皮機能を健全に保つことができる可能性が考えられました。そこで、カレーを食べることによって、酸化ストレスによると考えられる食後の血管内皮機能低下が改善することを確認しました。
スパイスを含まないコントロール食品の摂取によって、血管内皮機能の指標であるFMD値は5.8%から5.1%へ有意に低下しました(図1)。一方、カレー摂取の場合、FMD値は5.2%から6.6%へ有意に上昇しました。さらに、カレー摂取後のFMD値はコントロール食摂取後に比べ、有意に高くなりました。
血管内皮機能傷害は脳卒中や心筋梗塞といった動脈硬化疾患の原因になることが知られており、カレーの摂取は健常人の心血管の健康に役立つ可能性が考えられます。

図1 カレーの単回摂取が血管内皮機能に及ぼす影響

図1 カレーの単回摂取が血管内皮機能に及ぼす影響

研究2 PM2.5による呼吸機能障害抑制研究

カレーには抗炎症物質を多く含むスパイスが豊富に使われています。そのため、「カレーを食べることで、各種炎症が低減され、健康に様々な良い効果をもたらすのではないか」と考え研究を行っています。
研究を行っていく中で、ハウス食品グループは、カレー摂取頻度の高い高齢者で呼吸機能が良好に保たれていることが疫学研究の結果として報告されている※1ことに注目しました。カレーを食べる頻度が高いほど呼吸機能が健康に保たれており、その効果は喫煙者でより顕著であるという内容です。この報告では、カレー中のスパイスによる抗酸化・抗炎症作用が呼吸機能を維持し、特にタバコの煙による呼吸機能の障害を防いでいると考察しています。実際、オイゲノール(クローブの香気成分)やクルクミン(ウコンの黄色色素)といったカレーに含まれるスパイスの主要成分に、タバコの煙と同様に代表的なPM2.5であるディーゼル排気微粒子による呼吸機能障害を抑制する効果があることが報告されています※2。
なお、PM2.5の吸入は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器系疾患や循環器系疾患などの危険因子と考えられていますが、非常に小さいために、マスクなどで吸入を完全に防ぐことは困難です。
カレーおよびカレー粉には、クローブおよびウコンの他にも多くの抗酸化作用の高いスパイスが豊富に用いられていますが、PM2.5に対して効果があるのかは不明です。そこで今回、カレー粉、クローブおよびウコン、カレー粉に一般的に用いられるその他のスパイスについて、PM2.5による炎症反応を抑制する効果があるかを確認しました。

はじめに、カレー粉、クローブ、ウコン(両スパイスは一般的にカレー粉に用いられ、PM2.5に対する効果が既に報告されているオイゲノールまたはクルクミンを豊富に含みます)のそれぞれについて、ヒト気道上皮細胞を対象に試験を行いました。細胞にディーゼル排気微粒子(以下DEP)懸濁液を曝露後、カレー粉、クローブ、ウコンの抽出物を添加後培養し、炎症反応の指標として炎症性サイトカイン産生量(24時間後の培養上清中IL-6濃度)を確認しました。メカニズムについて考察するために、細胞外の活性酸素種の産生量として3時間後の細胞非存在下の活性酸素種濃度についても確認しました。
その結果、カレー粉抽出物、クローブ抽出物、ウコン抽出物の全てで、DEPにより引き起こされる炎症性サイトカイン産生(IL-6)を抑制しました(図2)。また、細胞外活性酸素種の産生も抑制されていました。これらの結果から、カレー粉抽出物、クローブ抽出物、ウコン抽出物は、細胞外の活性酸素種を低下することによって、PM2.5による炎症反応を抑制する可能性があることが分かりました。

IL-6の産生 カレー粉抽出物 クローブ抽出物 ウコン抽出物

図2-1 カレー粉、クローブ、ウコン抽出物のPM2.5による炎症抑制効果

活性酸素酵素の産生(細胞外) カレー粉抽出物 クローブ抽出物 ウコン抽出物

図2-2 カレー粉、クローブ、ウコン抽出物のPM2.5による炎症抑制効果

次に、同様の試験系で、カレー粉に含まれるその他10種類のスパイス抽出物の効果を確認しました。
その結果、コリアンダー抽出物と桂皮抽出物にも炎症性サイトカイン産生を抑制する効果が確認されました。これらの結果から、ウコンやクローブ同様、コリアンダーや桂皮も、PM2.5による炎症反応を抑制する可能性があることが分かりました(図3)。
ヒト気道上皮細胞においてPM2.5によって引き起こされる炎症反応が、カレー粉抽出物やカレー粉に含まれる4種類のスパイス(クローブ、ウコン、コリアンダー、桂皮)抽出物によって抑制されることが明らかになりました。この保護効果のメカニズムには、PM2.5による細胞外の活性酸素種産生の抑制が重要であることも示唆されました。

IL-6の産生 コリアンダー抽出物 桂皮抽出物

図3 コリアンダー、桂皮抽出物のPM2.5による炎症抑制効果

研究3 カレーの長期的かつ頻繁に食べる食習慣が認知機能に及ぼす影響研究

カレーは以前より認知機能に良い食品であると考えられていますが、明瞭な証拠は多くありませんでした。しかし、2006年にシンガポールの研究者らにより、カレー摂取頻度の高い高齢者で認知機能が良好に保たれていることが疫学研究の結果として報告されました※3。ハウス食品グループとしては「やはりカレーを食べることで認知機能が高まる可能性がありそうだ」と考えましたが、いかんせんシンガポールでの研究。食べられているカレーの種類、喫食状況、人種などがシンガポールと日本では異なるため、日本人においても同様の傾向が確認されるかは不明でした。
そこで、日本人の中高齢者を対象に、カレーの摂取状況が良好な認知機能と関係があるかを調査することにしました。
50歳以上の一般生活者を対象に、「調査直前1年間」(短期)と「成人以降で調査1年前まで」(長期)のカレー摂取頻度について、認知機能との関係を明らかにしました(図4)。調査直前1年間のカレー摂取頻度に基づき、月2回以上を「高頻度群」、月2回未満を「低頻度群」とし、各群1002人ずつを対象としました。認知機能の測定には、認知症の総合的アセスメントツールであるDASC-21を用いました。

図4 今回の研究におけるカレーの摂取状況の考え方

図4 今回の研究におけるカレーの摂取状況の考え方

その結果、長期のカレー摂取頻度では、「月1回未満」を1とした場合の認知機能スコアのリスク比が「月1回」で0.834、「月2~3回」で0.754、「月4回以上(週1回以上)」で0.718と有意に低くなりました。すなわち、長期のカレー摂取頻度が高いほど、認知機能が有意に良好でした(図5)。一方で、短期のカレー摂取頻度と認知機能の間には関係が見られませんでした。

さらに短期のカレー摂取頻度「高頻度群(月2回以上)」だけ、または「低頻度群(月2回未満)」だけでも同様の解析を行いました。高頻度群においても、長期の摂取頻度が「月1回未満」より「月1回」で有意に認知機能が良好であることが分かりました。一方で、低頻度群では長期のカレーの摂取頻度と認知機能との間に関係が見られませんでした。長期のカレー摂取頻度と認知機能との関係については、短期のカレーの摂取状況も重要であることが分かりました。
日本人の中高齢者において、カレーを長期的かつ頻繁に食べてきた習慣は良好な認知機能と関連する可能性が考えられました。日本人がカレーを頻繁に食べる習慣が認知機能維持に良い影響を与えている可能性が考えられましたので、今後カレー摂取が認知機能に及ぼす影響について詳細に検討する予定です。

認知機能スコア変化のリスク比

図5 日本人中高齢者における成人以降の長期のカレー摂食頻度と認知機能の関係
認知機能スコア変化のリスク比は、カレーの摂食状況、運動習慣、食習慣因子群等を説明変数として、多変量解析(ポワソン回帰)にて算出した。エラーバーは95%信頼区間を表す。

今後に向けて

ハウス食品グループは、今後も継続的にカレーやカレーに用いられるスパイスの健康に対する良い影響を明らかにしていきたいと考えています。

  • ※1 Ng TP, Niti M, Yap KB, Tan WC. Curcumins-rich curry diet and pulmonary function in Asian older adults. PLoS One. 2012;7(12):e51753.
  • ※2 Nemmar A, Subramaniyan D, Ali BH. Protective effect of curcumin on pulmonary and cardiovascular effects induced by repeated exposure to diesel exhaust particles in mice. PLoS One. 2012;7(6):e39554.
  • ※3 Ng TP, Chiam PC, Lee T, Chua HC, Lim L, Kua EH., Curry consumption and cognitive function in the elderly, Am J Epidemiol. 2006 Nov 1;164(9):898-906. doi: 10.1093/aje/kwj267. Epub 2006 Jul 26.,PMID: 16870699