
「ほとんどの新人には、怖い先輩だと思われているんじゃないでしょうか」
そう言って笑うのは、ハウス食品の営業本部で「HRBP」を務める田場裕里加さん。新人研修の初日、集まったばかりのメンバーに向けて、少し強い言葉で注意をしたことがあるそうです。
全国約400人の営業メンバーを見つめるHRBPの一人である田場さんは、「怒る」と「叱る」は違うと言います。感情にまかせてムキになるのが「怒る」。役割として事実を伝えるのが「叱る」。叱るときはいつも、その人が後々恥をかいたり困ったりしないようにと、“相手の未来”を考えて言葉を選んでいるそう。
2026年、18人の新入社員が営業としてスタートを切りました。そんな新入社員や入社年次の浅いメンバーの人材育成に日々取り組んでいる田場さんですが、研修を請け負う外部講師の方からも、「新入社員一人ひとりの成長にここまで本気で向き合う会社は珍しい」と驚かれると言います。
自分自身のことを「おせっかいで、人のことを放っておけない性格」と話す田場さんに、日々の取り組みや仕事をするうえで大切にしていることを伺いました。
目次
HRBPとは?
HRBPとは「Human Resource Business Partner(ヒューマン・リソース・ビジネス・パートナー)」の略称。事業部門の責任者などのパートナーのことを指し、人事や人材開発における戦略的パートナーとして、組織と従業員のパフォーマンスを向上させることで、業績向上を実現させるための役割を担う。ハウス食品では2024年に営業本部に新設された。営業本部の採用から人材育成、マネジメントの改善や労務基盤の整備などを担当する。

ハウス食品株式会社 田場 裕里加(たば ゆりか)
2018年ハウス食品株式会社入社。沖縄県出身。東京支店で5年間営業を担当し、営業推進課を経て、2025年より営業企画推進部人材企画課へ。営業本部のHRBPとして、採用、新人研修、若手・中堅の学習機会づくりを担う。「困っている人を放っておけない」のは、母親ゆずり。「よく食べ、よく飲み、よく動く」がモットー。
――冒頭の“怖い先輩”というお話、詳しく聞かせてください。研修の初日から、厳しく注意をされたそうですね。
田場:そうなんです(笑)。これはHRBPになる前、営業職の新人研修を担当していた頃の話なのですが、基本中の基本を教えただけで、私が特別に厳しいというわけではないと思います。初日から時間に遅れたり、社員証を忘れたり、身だしなみが乱れていたりと、おやおやという出来事の連発で。一つひとつの態度に対して少し強めに注意をしました。
現在のHRBPという立場で受け持った新人に対しても、このスタンスは変わらずですね。
――そうした厳しいことを伝えるとき、相手からどう思われるか気になりませんか?
田場:そうですね、気にならないとは言いませんが、たとえ怖い人と思われても、世の中には「叱る役割」が必要だと思っています。もっと細かく言うと、叱りはしても、怒らないように気をつけています。私は「怒る」と「叱る」は違うと思っていて、役割として事実を伝えているのが「叱る」で、感情的になり、ムキになっているのが「怒る」だと考えています。「叱る」ときはその相手が後々恥をかいたり困ったりしないようにと“相手の未来”を考えて話すようにしています。そうすると受け取る側にちゃんと想いが伝わるはずですし、逆に感情にまかせて「怒って」しまえば相手の心には届かないと感じています。ほかにも、「自分の頃はこうだったよ」という“自分目線”ではなく、“相手目線”で接することにも気をつけていますね。何かアドバイスをするときも、相手の目線に立った言葉で伝えるようにしています。HRBPになる前からそうですが、相手の未来がより良くなれば、と思って接しています。
――ご自身が「叱る役割」を担うことに、迷いはありませんでしたか?
田場:ありましたよ。「うざい先輩って思われているだろうな」と思うこともありましたし、正直、「これ、マネージャーが言ってくださいよ!」と思ったこともあります(笑)。そんなとき、自分の上司ではないマネージャーと話す機会があって、「田場さんがあえて嫌な役を引き受けてくれていることもわかっていて、任せているんだよ」と言ってくださったんです。“自分がやってきたことを、ちゃんと見てくれている人がいる”そう思えたことで、少し気持ちが軽くなりました。それからは、「だったら私は、この役割をやっていこう」と自分なりに腹をくくれるようになりました。もちろん、厳しいことを言いたいわけではありません。でも、この組織がこの先もっと良くなるために、目の前の後輩が後々困らないために、必要なことはきちんと伝えたいと思っています。もともと困っている人を放っておけない性格なんです。だから、相手にとって耳の痛いことであっても、その人のためになると思ったことは、曖昧にせず伝えるようにしています。
――当時、厳しく指導されたメンバーとは、現在はどのような関係ですか?
田場:実は、いまでは「飲みに行きましょう」と誘ってくれるメンバーもいたりして、良い関係性を築けています。当時の話になると「あのとき田場さんが厳しく指導してくれなかったら、ダメな社会人になっていたと思います」と、笑いながら言ってくれることもあります。あのとき伝えたことが、ちゃんと届いていたんだなと思うとうれしいですね。
――あらためて、田場さんはHRBPとしてどのような役割を担っているのでしょうか。
田場:HRBPは正式な肩書ではなく通称なのですが、ハウス食品では営業本部に置かれている役割です。現在は3人で、全国約400人の営業本部メンバーをサポートしています。私は先輩とともに、おもにマネージャー職になる前のメンバーを担当しています。新入社員やキャリア入社者のオンボーディング、全国の支店での面談、研修・学習会の企画など、仕事は様々です。人事というより、「営業本部の現場で伴走する人材育成係」という表現が近いかもしれません。HRBPの3人は、それぞれ、人事、営業戦略、営業現場と異なる経験を持っていて、勝手に「三銃士みたい」と思っています(笑)。営業本部には、将来様々な部署で活躍する人材を育てていく役割もあります。だからこそ、一人ひとりが持っている力をどうすればもっと発揮できるかを、3人で日々考えています。
――HRBPになる前は、5年間、営業を担当されていたそうですね。営業には「数字を追う仕事」というイメージがありますが、苦労したことも多かったのでは?
田場:そうですね。営業時代は、スーパーのバイヤーさんにいろいろと施策を提案しても、相手の心にまったく刺さらない時期がありました。八方塞がりになって悩んでいたときに、当時のマネージャーから、こう言われました。「バイヤーさんも会社員だよ」と。目から鱗というか、雷に打たれたような衝撃を受けましたね。「バイヤーさんにも予算や役割があるなかで、ハウス食品と向き合ってくれている。たとえ田場さんの提案を採用したいと思っても、その先には自分の上司がいて、その人へのプレゼンも必要になるでしょう。いまの田場さんの資料で、その上司にうまく話せるかな?」と言われて。営業という仕事はただ目先の数字を追うのではなく、取引相手の立場や状況まで想像して提案するべき“顧客志向”の仕事だと教わって、すごく共感できました。
――仕事観が変わった瞬間だったのですね。
田場:はい。それ以来、先方が抱えているモヤモヤを一緒にひもといていく営業の仕方に、やりがいを感じられるようになりましたね。たとえば、まずスーパーの担当者さんに「いまの売り場、どう感じていますか?」と聞くところから始めます。そのときに「なんか、カレー売り場をどうにかしたい」と言われたら、そのモヤモヤした“なにか”の正体を突き詰めるために、いろいろな角度からあれこれヒアリングを続けていきます。そうして担当者さんの悩みや困りごとをスッキリと言語化できて、「よし、じゃあその提案でいってみようか!」というお声をいただけたときが、もっとも達成感を得られる瞬間でした。
――営業からHRBPへ。役割が大きく変わることに、戸惑いはありませんでしたか?
田場:打診されたときは、正直「私にできるのかな」というプレッシャーがありました。それまで支店全体のサポート業務にも携わっていましたが、今度は全国約400人の営業本部メンバーを支える立場。「これは大変なことになったぞ」と(笑)。でも実際に仕事を始めてみると、営業時代と本質的には変わらないことにも気づきました。営業では、お得意様が置かれている立場や環境を踏まえ、「相手にとって何がいちばん良いのか」を考えてきました。いまは、私にとってのお得意様が営業本部のメンバーに変わっただけなんです。相手がどんな気持ちで、どんな世界を見ているのか。そこに目を向け、相手の立場に立って一緒に考える。営業本部が大切にする「価値共創実現営業」と同じように、HRBPとしてメンバーに伴走するときも、その姿勢を大切にしています。
HRBPの田場さんが、note連載企画「わたしとカレー。」にも登場!
思い出のカレーや、田場さんらしさのルーツが見えてくるユニークなご家族のお話など、本編では語りきれなかったエピソードを伺いました。ぜひ、あわせてご覧ください。
【note】「父がちょっと太ってくれたおかげで、カレーが好きになった」
――研修を終えたあとは、全国の支店を回るそうですね。どんなことをされているのですか?
田場:入社年次の浅いメンバーを中心にうまく成長できているか、成長できる環境かどうかを見守っています。うまくいっていなければ「何が原因になっているのか」を考えて、現場へフィードバックするようにしています。支店内を回った際には、「〇〇さんはその後どうですか?」とマネージャーの皆さんに聞いたり、気になるメンバーがいたら支店で一緒に時間を過ごしたり、周りの方々にもその人の普段の様子を教えてもらったりして、メンバーの置かれている状況や心情に対して解像度を高めるようにしています。やはり、実際に現場を見ることで気づけることもあるんです。
以前、研修ではあまり積極性が見られなかった若手社員が、1年後には「自分の業務の課題を解決するために学びたい」と、自ら目的を持って学習会に参加したことがありました。その変化に驚いて、「この1年で何があったのだろう」と支店を訪ねてみたんです。そこで見えてきたのが組織の変化でした。数字だけでなく、「熱量高くやっていこう」と、一人ひとりの意識にも働きかけるようになっていたんです。組織が変われば、人も変わる。その変化を現場で見つけ、組織全体へ還元していく。それもHRBPの大切な仕事だと思っています。
――若手メンバーを見るときに、意識している視点はありますか?
田場:HRBPで一緒に取り組む先輩が、「いいとこメガネって知っている?」と教えてくれたことがあって。その人の良いところを見つけるメガネ、という考え方だそうです。育成の場ってどうしても「できていないこと」に目が向きがちですけど、それよりも、この人ができていること、成長できたところを一緒に見つけたいよねと。それを聞いて「確かに、いいとこメガネだ」と思って、以来ずっと意識しています。もともと私は、ダメなところがあったとしても「この人はダメ」とスパッと切るのではなく、「力を発揮できていない要因が何かあるはずだ、それをどう取り除けるだろう」と考えるほうが好きなんです。本人のせいということもあれば、そうじゃないこともありますから。
――HRBPのお仕事で難しさを感じるのは、どんなときでしょう。
田場:やはり思い込みで見立ててしまったときですね。これまでの経験から「こういう発言をするということは、この人は自立に向けての支援が特に必要なタイプだな」と先に決めつけてしまって、仮説を検証しないまま接してしまう。あとから支店の方に聞くと「全然そんなことなかったよ」と言われて、「あのときのあの声かけは間違えたな」と反省することもあります。解像度が低いままスタートすると、どうしてもズレてしまうんです。難しいのですが、自分から知りに行くことをやめたらそこで終わりなので、情報は取りに行く、現場は見に行く、と決めています。
――人を育てる仕事だからこそ、迷うこともありそうですね。
田場:去年はまさに、迷いながら進めていました。育成は、もしかしたら間違った方向に導いてしまうかもしれない。そんな怖さもあります。でも、そんなときに部長が「この子たちが将来花開いたら、それはあなたたちの成果。でも、もし花開かなかったとしても、それはあなたたちのせいじゃない」と言ってくださって、その言葉に救われました。
部長からはほかにも、「自分を信じる気持ちが揺らぐときにこそ、自分を信じ直す強さが必要だ」とか、「いままで1も見えていなかったことが、明日すぐ10見えるようになるわけがない。でも、1でも2でも見えるようになっていたら、それがあなたの成長ですよ」とか。あまりに言葉選びがすてきなので、勝手に「言葉の魔術師」と呼んでいます(笑)。毎回のようにメモしていて、私にとってはもうバイブルですね。
――人に何かを「伝える」うえで、大切にしていることはありますか?
田場:人材育成に関わっていると、「伝えること」と「伝わること」は違うと感じます。以前、私が指導していたメンバーも、いまでは後輩を教える立場になりました。「後輩にこう動いてほしいけれど、どう伝えたらいいかわからない」「どうしたら伝わりますか?」と相談してくれることがあります。そんな姿を見ると、初めて出会った頃とは見ている世界が変わったのだな、と成長を感じます。さらに、「田場さんも、あの頃こんな気持ちだったんですね」と言われることもあって。当時、一生懸命伝えていたことが、何年か経ってようやく本当の意味で“伝わった”のかもしれないと思うとうれしいですね(笑)。
人材育成は、すぐに結果が見える仕事ではありません。でも、時間をかけて相手のなかに残り、いつかその人自身の経験と重なって「伝わる」瞬間がある。そうした成長に立ち会えることが、この仕事の醍醐味だと思っています。
――当時は“怖い先輩”だった田場さんに相談してきてくれるのも、グッときますね!
田場:そうなんです(笑)。でも今年は、もっと早く「伝わった」と実感できる、うれしい出来事もありました。新人研修の最終日に、サプライズで寄せ書きの色紙をもらったんです。本当に感動しました。メッセージのなかには、私が研修で話した「“伝える”と“伝わる”は違う」という言葉を書いてくれているメンバーがいました。自分が一方的に伝えたつもりでも、相手が受け取れる状態でなければ伝わらない。だから“伝える”と“伝わる”の違いを考えて相手と話してほしい、と伝えていたことなんです。ちゃんと届いていたのだな、とうれしくなりました。
――田場さんは沖縄出身。県外の大学へ進学するときには、ご家族を説得されたそうですね。
田場:はい。九州の大学への進学を決めたのですが、家族は猛反対。祖父母からは「親不孝者」と言われるほどでした(笑)。それでも、県外や海外で自立していた兄と姉の姿を見て、「やりたいことがあるなら、自分の意志で道は切り開ける」と思っていました。
そこで、両親を説得するために、4年間の学費や生活費、留学費用、アルバイトや奨学金まで全部計算してプレゼンしたんです。振り返ると、あれが人生で初めてのプレゼン営業だったのかもしれません(笑)。
――HRBPチームの今年のキーワードは「考動(こうどう)」と伺いましたが、学生時代から「考えて動く人」だったのですね!
田場:そう言われるとずっと「考えて動いて」きたのかもしれませんね!いま、私たちが掲げている「考動」は、営業本部の今期の人材ポリシーでもあります。HRBPの3人で、「これからの時代に大切なものは何だろう」と意見を出し合って決めました。
変化の大きい時代だからこそ、“自分で何をすべきかを考え、動ける人であってほしい”そして、“そういう人をきちんと評価できる組織でありたい”そんな思いを「考動」には込めています。
――「考動」を掲げたことで、仕事にどんな影響がありましたか?
田場:一つ軸ができたことで、社内へのメッセージをより強く出せるようになりました。たとえば学習会も、これまでの指名制から挙手制に変えています。「考動する人が評価されていきますよ」と伝えることで、自分から手を挙げてくる人が増えれば、本人の熱量も得られるものも変わってくると思うんです。
採用面接でも、「考えて動く人を求めています」と、しっかりと伝えられるようになりました。会社が大切にしていることを正直に伝えることは、入社後のミスマッチを防ぐことにつながると思っています。特に就活中の学生たちにとって、最初に入社する企業が自分に合っているかどうかは、その後の人生においてとても大切です。だからこそ「この人となら一緒に頑張れそうだ」と思えたら、そこからは全力で伴走します。
――これから田場さんご自身はどんな存在になっていきたいですか?
田場:一人の社会人として、誰かに良い影響を与える人でありたいと思っています。沖縄の家族、職場の上司など、たくさんの人たちから良い影響を受けてきました。私も同じように、身近にいる人、仕事で関わる人たちに良い影響を与えていきたいですね。その人の人生がより良くなるためにはどうしたらいいのだろうと考え続けて、「考動」できればと思っています。論理だけでなく、言葉一つで人が動き出せるようなメッセージングができる人になりたいです。そのためにも、言葉の背景にある相手の環境や思いを見ることは、ずっと大切にしていきたいですね。
――おせっかいな性格だとおっしゃっていましたが、この仕事にはぴったりですね。
田場:そうですね(笑)。ただ、おせっかいが行き過ぎないようにも気をつけています。社内でもよく話しているのですが、各職場のマネジメントや、一人ひとりのモチベーションがより良い方向に向かい、それが営業力の向上につながっていく。そのために必要な「情報」や「手立て」を提供しながら、私たちはしっかり伴走する立場でいようと。いわば、組織や人を支える情報の「添え木」のような存在です。「添え木」って、すてきな言葉だなと思って。私はつい現場に飛び込んでいきたくなるタイプなんです(笑)。だからこそ、現場との線引きは大切にしています。
HRBPとして新人や若手メンバーを温かい目線で常に見守りながら、ときには叱咤激励もする。「私がハウス食品の先輩たちにしてもらってきたことを、後輩たちにもしてあげたい」と田場さんは語ります。ときどき厳しい言葉を投げかけたとしても、その裏に“その人の未来”を思う気持ちがあるからこそ、田場さんは誰からも頼られる存在になっているのでしょう。
思い返せば、県外の大学へ進むために4年分の学費や生活費を試算して両親にプレゼンした高校時代から、田場さんは「自分はいま何をすべきか」を考えて動く人でした。営業本部が掲げる「考動」は、田場さんご自身がすでに歩いてきた道でもあるのです。違うのは、その矢印の向きなのかもしれません。かつて自分の未来のために考えて動いた人が、いまは誰かの未来のために考え、動いている。
今回のインタビューを通して、外部講師の方から「新入社員一人ひとりの成長にここまで本気で向き合う会社は珍しい」と評される理由がわかった気がします。
取材日:2026年8月
内容、所属等は取材時のものです
文:三宅隆史
写真:片桐圭
編集:株式会社アーク・コミュニケーションズ
HRBPの田場さんが、note連載企画「わたしとカレー。」にも登場!
思い出のカレーや、田場さんらしさのルーツが見えてくるユニークなご家族のお話など、本編では語りきれなかったエピソードを伺いました。ぜひ、あわせてご覧ください。
【note】「父がちょっと太ってくれたおかげで、カレーが好きになった」
ホーム 食でつなぐ、人と笑顔を。 &House かつては自分のために、いまは誰かのために。“考動”するHRBPの仕事