
【前編】では、『うまかっちゃん』関連プロジェクトに取り組んできた東京本社食品事業部の富田将史さんと福岡支店の塩田健一さんに、お二人の出会いから、福岡のソウルフードである『うまかっちゃん』に対しての愛を語っていただきました。
続いて【後編】では、『うまかっちゃん』の地元である九州の企業や団体とのコラボや、『うまかっちゃん』の製造を一手に引き受けるハウス食品福岡工場についてご紹介していきます。

ハウス食品株式会社 富田 将史(とみた まさふみ)
2001年ハウス食品入社。福岡県北九州市出身。
2007年まで開発研究所(旧ソマテックセンター)においてシチューミクスほか、様々な製品の開発に携わる。2008年より食品事業部(旧調味食品部)で『うまかっちゃん』シリーズ、「即食シチュー」などの開発を担当。2020年よりビジネスユニットマネージャーに就任。歴史が好きで、歴史小説を読んだり、歴史番組をよく見たりしている。

ハウス食品株式会社 塩田 健一(しおた けんいち)
2001年ハウス食品入社。福岡県福津市出身。
家庭用製品の営業・スタッフとして四国・東北エリアでの活動を経て、2011年に東京本社(旧営業企画推進室)に異動。その後、首都圏支社(旧東京支社)で営業推進業務に従事。2015年に福岡支店勤務となる。以降、営業推進課で営業支援業務に従事し、2025年春より営業事務、総務関係の業務へ。中学1年生になった長男が休日に『うまかっちゃん』を作ってくれることも。最近は行ったことがないところでその土地ならではのおいしいものを食べることがマイブーム。
──『うまかっちゃん』は地域に根付いた商品だと思いますが、九州の企業や団体とコラボすることもあるのですか?
富田:はい、あります。2021年から「九州を元気にするプロジェクト」として、地元の食材関係者や地元企業などと協力して取り組みを進めています。例えば、2024年の『うまかっちゃん』45周年では、日本デザイナー学院九州校と、先ほど話に出た西島伊三雄先生のご子息である西島雅幸先生、有田焼窯元の「梶謙製磁社」と一緒に「うまかっちゃん特製どんぶり」の企画を実施しました。
また、そのときのご縁から、75歳以上のばあちゃんたちが働くうきはの宝株式会社が展開する喫茶店「ばあちゃん喫茶」、さらに子どもたちの居場所づくりを行う「ふくおかこども食堂ネットワーク」と連携した食育イベントの実施につながりました。『うまかっちゃん』を応援してくださる九州の皆さんに助けられながら、2025年現在も様々な取り組みが続いています。
──上記のような企画を通じて「地元の一体感」を醸成していくうえで、大切にされていることはありますか?
富田:とくに意識しているのは、「本当に九州の人たちが喜んでくれることなのか、興味をもってくれることなのか」という点です。『うまかっちゃん』はハウス食品のブランドではありますが、一方で、もはや私たちだけのものではなく、九州の皆さんに育てていただいたブランドをお預かりしているという感覚を忘れないよう心がけています。
──東京本社で働きながら九州の商品に関わる難しさはありますか?反対に「距離感」が強みになった経験は?
富田:福岡支店、福岡工場の方たちと比べると、市場の状況や数字は見えても、地元の温度感や、イベントの盛り上がりなどを直接感じることができないのはハンデかもしれません。一方で、距離があるからこそ俯瞰して客観的に捉えられる強みもあります。リアルな体感の部分は福岡の皆さんに補ってもらいながら、総合的に最善の判断をするのが私の担う役割であると考えています。また、地元を離れて『うまかっちゃん』を恋しく思う人の気持ちを、同じ九州出身者として深く理解できる点も強みかもしれません。
──福岡支店が主体となって地元企業との取り組みを企画することもあるそうですが、これまでの取り組みを教えてください。
塩田:2つの事例があります。1つは、辛子明太子の製造販売を手がける「福さ屋株式会社」様との取り組みです。従来、福さ屋様では、明太子の漬け込み液をその他の用途では活用できず、廃棄されていました。SDGsの観点からこれを有効活用するため、明太子の旨味・辛味がギュッと詰まったこの漬け込み液をフリーズドライ加工し、当社がその原料を『うまかっちゃん』の粉末スープとして採用しました。2024年2月に期間限定で発売したところ好評で、同年11月にも45周年記念として第二弾を発売しました。
もう1つは、先ほどもお話しした「株式会社山口油屋福太郎」様との取り組みによる『うまかっちゃん』アソートセット(詰め合わせ商品)です。当社単独では難しかったセットアップ販売ですが、ご協力いただいたおかげで実現し、現在も九州の土産店でお買い求めいただけます。
──他社との取り組みに必要な関係性を築くためにどのような努力をされてきたのでしょうか?
塩田:できるだけ腹を割って本音で話せるところはお話しし、理解し合えるよう心がけています。また、感謝の気持ちを抱いてお互いを認め合い、それぞれの良いところを引き出せるよう努めています。「会社対会社」の関係と「人対人」の関係、両方の軸で考えることが肝心だと思っています。
──地元企業と手を組んでプロジェクトを行う意味について、どのようにお考えですか?
富田:そうですね、まず、取り組みがお互いの課題解決につながることが、とても有意義だと思います。『うまかっちゃん』のファンが増えれば、同時に相手のブランドのファンも増えていく効果があります。また、前述の「ばあちゃん喫茶」や「子ども食堂」のイベントにつながったように、地元企業とのつながりによって新たなつながりが創出され、『うまかっちゃん』とともに相手ブランドにも可能性が広がります。
塩田:富田さんと似た答えになりますが、ハウス食品単体ではできないことにチャレンジできるのが大きなメリットです。会社のルールや制約のなかでは解決できない課題も、お客様に寄り添って支持していただける形をとりながら解決に向かえるので、外部からの声を活かしながら活動の幅を拡大していこうとするのは大事なことだと思います。まさにそうして生まれたのが『うまかっちゃん』ですから。
福岡県古賀市には『うまかっちゃん』の製造拠点であるハウス食品の福岡工場があります。
『うまかっちゃん』は、古賀市における「ふるさと納税」の返礼品にもなっており、そのような縁から、古賀市と福岡工場が協力してイベントなどを開催しているそう。
そして福岡工場の工場長である野中さんは、実はハウス食品の工場では初の女性工場長。そんな野中さんにお話を伺いました。
──九州のソウルフードとして愛され続ける「うまかっちゃん」を一手に製造する拠点として、福岡工場としての誇りや責任感をどのように捉えていますか。
野中:九州人による九州人のためのラーメンとして発売され、45年間、九州の方の郷土愛に支えられているブランドとして『うまかっちゃん』が成長し続けてきたことは私たち福岡工場の誇りです。私自身、福岡工場着任後に地元の人からこんなに愛されている製品であったことに衝撃を受けましたし、だからこそ、お客様の期待を裏切ってはいけないと日々感じています。生産部の「安心・安全、高い品質力、コスト競争力」といった強みを活かした活動で、引き続きお客様に満足いただける製品をお届けできるよう、福岡工場一丸となって尽力していきたいと思います。
──『うまかっちゃん』を初めて食べたときの印象や、他の即席麺との違いについて感じたことはありますか?
野中:私自身は醤油ラーメンの文化の中で育っていたので、「うまかっちゃん」を初めて食べたときは、風味の強さに衝撃を受けました!慣れていくとおいしさが感じられるようになりましたが、その印象の強さから即席麺というカテゴリーではなく、『うまかっちゃん』という特別な製品の印象を持っています。
そんな野中さんが舵を取る福岡工場では、毎日約5万5000食(※『うまかっちゃん(定番)』が製造されています。厳しい品質管理を経て食卓に届けられる『うまかっちゃん』。その詳しい製造過程については【note】にてご紹介しています!
こちらもぜひご覧になってみてください。
note「ハウス食品福岡工場に潜入!『うまかっちゃん』ができるまで」
──『うまかっちゃん』に熱い想いをもって取り組んでこられたお二人ですが、日々仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?
富田:小学校の卒業時、担任の先生にもらった言葉「山椒は小粒でもピリリと辛い」がずっと忘れられません。私としては「自分の持ち味を活かせ」というふうに捉えているのですが、仕事に対しては、自分なりの工夫やアクセントをつけたいと思いながら向き合っています。例えば、資料1つを作るにしても、より伝わりやすく、分かりやすいように何かしらの工夫を施すことを入社以来、意識して続けています。
塩田:私は年齢や立場の点で、下の人たちに教える場面も増えていますので、自分が培ってきた能力と経験を駆使しながら、次の世代へ伝えていくべきことをなるべく良い形で伝えられるよう努めています。
──今後、仕事を通じて実現したいことや夢はありますか?
富田:これは入社した頃からの夢ですが、「自分が開発した商品やブランドがずっと長く続き、孫やひ孫に『これはおじいちゃんが作り出したんだよ』と胸を張って言えるようになりたい」という想いがあります。現在は、レトルトカレーのカテゴリーを担当していますが、『うまかっちゃん』で学んだことを活かす形で、『うまかっちゃん』のように長く愛され続けるブランドを生み出せたらうれしいですね。
塩田:『うまかっちゃん』にはいつまで関われるかわかりませんが、これまでの開発スキームや他社との共創の経験値を次の世代につなぎ、より良い形でブランドを残せる結果になれば、私が関わった意義が出てくると思います。また、生きていくのが大変な世の中で困っている人たちが大勢いる状況に対して、微力ながらも自らの仕事を通じて、明るい兆しのきっかけをつくる役割が担えればと思っています。
九州のお客様に愛されるラーメンとして開発された『うまかっちゃん』。発売から半世紀近く経ち、今や、確かなブランドイメージをもつ、ハウス食品の主力商品へと成長を遂げています。
そして、塩田さんと富田さんをはじめ、九州のみならず全国にいるファンを結びつけて人の輪を育み、大勢を笑顔にする活動の種となりながら、『うまかっちゃん』はその歴史に新たなページを重ねていきます。
『うまかっちゃん』と紡ぐ、九州への感謝と誇り【前編】
取材日:2025年8月
内容、所属等は取材時のものです
▶『うまかっちゃん』ブランドサイト
文:堀雅俊
写真:山中まどか、照井賢久
編集:株式会社アーク・コミュニケーションズ
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