
1978年、ハウス食品では日本全国でラーメンを販売していましたが、このラーメンの生産拠点である九州のお客様から支持を得られず、九州を担当する営業スタッフたちは苦戦を強いられていました。彼らの間で「九州のお客様に支持されるラーメンを開発してほしい」という声が高まり、「九州ラーメン」開発プロジェクトがスタート。そしてその翌年、登場したのが『うまかっちゃん』でした。
今回お話を伺うのは東京本社パーソナル食品事業部の富田将史さんと福岡支店営業推進課の塩田健一さん。ともに福岡県に生まれ、子どもの頃から『うまかっちゃん』の味に親しみ、やがて同期でハウス食品へ入社。新人研修の宿舎では、将来の夢を語り合いました。その後、二人は研究職と営業職として、別々の職場へ。
そんな二人を再び結びつけたのが、『うまかっちゃん』でした。入社してからの道のりは異なる二人ですが、大好きな一杯への思いはいつも同じ。
東京と福岡と離れながらも、『うまかっちゃん』関連プロジェクトに取り組んできたお二人に、自分たちにとって特別な製品への思い、仕事上の苦心と喜び、大切にしていることなどについて、お話を伺いました。
前編ではお二人の出会いから「うまかっちゃん歴」を、後編では『うまかっちゃん』の地元・福岡の企業との共創について紹介していきます。

ハウス食品株式会社 富田 将史(とみた まさふみ)
2001年ハウス食品入社。福岡県北九州市出身。
2007年まで開発研究所(旧ソマテックセンター)においてシチューミクスほか、様々な製品の開発に携わる。2008年より食品事業部(旧調味食品部)で『うまかっちゃん』シリーズ、「即食シチュー」などの開発を担当。2020年よりビジネスユニットマネージャーに就任。歴史が好きで、歴史小説を読んだり、歴史番組をよく見たりしている。

ハウス食品株式会社 塩田 健一(しおた けんいち)
2001年ハウス食品入社。福岡県福津市出身。
家庭用製品の営業・スタッフとして四国・東北エリアでの活動を経て、2011年に東京本社(旧営業企画推進室)に異動。その後、首都圏支社(旧東京支社)で営業推進業務に従事。2015年に福岡支店勤務となる。以降、営業推進課で営業支援業務に従事し、2025年春より営業事務、総務関係の業務へ。中学1年生になった長男が休日に『うまかっちゃん』を作ってくれることも。最近は行ったことがないところでその土地ならではのおいしいものを食べることがマイブーム。
──お二人はハウス食品のなかでも「うまかっちゃん愛」が強いと伺っています。お二人の「うまかっちゃん歴」を教えてください。
富田:私が1975年生まれで、『うまかっちゃん』の発売が1979年ですから、物心ついたときにはもう世の中にあった商品なんです。とくに私が生まれ育った福岡では、各家庭に常備されているようなものですから、この前はいつ食べたなんて、とくに意識することもなく、当たり前に、食べ続けてきたというか。もう40年以上の「付き合い」になりますね。
塩田:私が1978年生まれで、その翌年に『うまかっちゃん』が誕生しましたから、やはりなじみ深い味といえますね。小学生のときに初めて作った料理も『うまかっちゃん』でした。中学や高校でも、部活終わりとか受験時の夜食で食べていましたね。大学進学で九州を離れたときにも、実家から送ってもらっていたのを思い出します。今では、息子も筋金入りのファンになっています。
──お二人は同期入社ということですが、出会いについて教えてください。入社当時のことで印象に残っていることはありますか?
塩田:当時は、奈良県に研修所があって、同期の新入社員はみんな、研究職も営業職も、そこで一緒に合宿をするのが決まりでした。1部屋2名ずつで居室を割り当てられたのですが、そのときに富田さんとは同じ部屋で。お互い福岡県出身ということもあって、すぐに打ち解けて、いろいろな話をしたのを覚えています。夜遅くまで、「将来どういう風にしていこうか」といったことから、「いつか一緒に仕事をしたいね」などといった話もしました。
富田:私は、同じ福岡県出身と知って、こんな偶然もあるんだなと、まず思いました。研修中のチームも同じで、一緒にカレーを作ったときの写真が社内報にも載りました。あのときのメンバーというのは、社会人生活の始まりで共同生活を送った特別な仲間ですから、その後も何かと交流は続いていますね。
塩田:そのときの社内報に載った写真、実は用意してきました。20年以上前の社内報ですから、画質は粗いですけど…。真ん中のパッケージの裏の作り方をしっかり読んでいるのが私で、その右が富田さん、そして左側が古西さん(現・東京支店長)で、2024年3月までは福岡支店で私の上司として一緒に『うまかっちゃん』共創タスクにも携わっていましたので、ここも同期のつながりです。
──『うまかっちゃん』の担当となって再会したときの気持ちや、「一緒にやってきてよかった」と感じた出来事を教えてください。
富田:私は製品を開発する部署から今の部署に来ているので、いわゆる営業経験がないわけです。なので、営業の現場でどのようなことが課題になっているとか、どういう点に腐心しているとか、丁寧に教えてもらえるので、塩田さんをとても頼りにしていました。とくに、福岡支店は『うまかっちゃん』に関しては「現場の最前線」みたいな存在ですから、現場のリアル感というか、肌感覚で経験を伝えてもらえるのは、ありがたかったですね。
塩田:そんな風に思ってくれていたとはうれしいですね!私がよく覚えているのは、コロナ禍だった2021年の辛子明太子専門店の「福さ屋株式会社」様とのコラボ企画です。この企画は「九州を元気にするプロジェクト」の1つで、福岡支店だけでなく、本社や研究所も一緒に共創する形で進みました。不安が先に来る時期だけに、まず「九州のお役に立てること」を一緒に考えていこうとスタートしたのですが、みんなで一丸となって進めていく過程が、入社当初の研修時の気分に近いな、という感触はありました。そういう意味で、同期で、九州に生まれた者同士である富田さんがいることは、心強かったですね。
──地元九州で親しんできた『うまかっちゃん』を担当することになったときの率直な心境はどんなものでしたか?
富田:やはり素直にうれしかったです。子どもの頃から慣れ親しんできた商品ですからね。それに、地元はもちろん、多くの人に知られている商品なので、甥っ子など、親戚に自慢できるな、という気持ちにもなりました。
塩田:私もうれしい気持ちがあった半面、福岡支店に異動し、地元である福岡で『うまかっちゃん』に携わるようになったことで、地元や会社に貢献したいという、責任感というか使命感のようなものもありました。考えてみれば、『うまかっちゃん』を夢中で食べていた子どもの頃には、将来、『うまかっちゃん』に関わる会社に入って、こういう仕事をするなんて、想像したこともなかったですね。
実は、ハウス食品が『うまかっちゃん』を作っている会社だというのも、入社してから知った次第で、そういうところにも縁を感じています。
──同期というのは特別な存在だと思いますが、これまでの経験を振り返って、相手に対して「すごいな」と思う点や尊敬しているところがあれば教えてください。
富田:実は昨年も、一緒に『うまかっちゃん』の新しい商品を考える機会があったんですが、あらためて塩田さんの、仕事への真摯な向き合い方とか、『うまかっちゃん』に対する情熱の強さに感心させられました。まずタスクメンバー全員でアイデアを持ち寄る際に、塩田さんは誰よりも多くアイデアを出してくれますし、その一つ一つの密度も濃いわけです。どれもよく考えられているなと。そういう塩田さんの熱がみんなに伝わり、場が活気づく。ずっとチームを引っ張ってくれていた感じでしたね。
塩田:照れますね(笑)。富田さんはご自身では「営業経験がないから」と言われるんですけど、営業現場や得意先でご一緒することがあると、各自の立場や考えをしっかり踏まえたうえでの発言ができるし、実に的を射た言葉で話を進められています。本社で大切なブランドを預かる立場でありながら、地域や現場の声にも耳を傾けて判断できる、とてもバランス感覚に優れた人だと感じますね。私は営業出身ですから、研究職としての経験値も持ちあわせている富田さんはうらやましいぐらいです。
──ずばり、『うまかっちゃん』の好きなところはどこですか?
富田:どこが好きか、あらためて考えたこともないくらい身近な存在すぎるのですが…。慣れ親しんだ味はひとまず置いておくとして、あえて客観的に『うまかっちゃん』を手にとってみると、商品名の響きも、パッケージのデザインも好きなんですよね。これもひいき目かもしれないですが。
塩田:私も、ネーミングが優れていると感じます。とくに福岡の人にとっては親しみやすいですよね。「おいしい」を意味する「うまか」に、「○○っちゃん」という愛らしい方言の語尾をつなげていて。味のおいしさは言うまでもなく、手軽に作れて、小学生時代の私のように、誰が作っても失敗しないところも、大きな魅力ではないでしょうか。
──パッケージやネーミングのお話がでましたが、パッケージには博多祇園山笠が描かれているんですよね?
富田:はい、そうです。『うまかっちゃん』は、九州を担当していた営業職社員からの「九州のお客様に支持されるラーメンを開発してほしい」という要望で開発プロジェクトがスタートした経緯があります。開発メンバーは、九州各地のラーメンを食べ歩いてスープを研究し、九州出身の社員に意見を聞き、主婦の方などを対象に試作テストを重ねて『うまかっちゃん』を完成させました。
パッケージも九州の人に好まれるようにと、九州で活躍するグラフィックデザイナーの西島伊三雄先生に依頼し、博多祇園山笠をテーマに描いてもらいました。西島先生は『うまかっちゃん』の名づけ親でもあります。
──『うまかっちゃん』が九州のソウルフードであると肌で感じたこと、地元の方々の「うまかっちゃん愛」を感じるエピソードがあれば教えてください。
富田:そうですね、私は2019年に福岡工場で開催された『うまかっちゃん』の40周年イベント「うまかっちゃんサミット」が、とくに心に残っています。いわゆるファンイベントのような催しだったのですが、平日にもかかわらず、県外の方も含め、古賀市にある福岡工場まで自費で駆けつけてくれました。工場見学や『うまかっちゃん』作りを楽しまれ、将来の『うまかっちゃん』についてディスカッションするなど、大いに盛り上がりました。最後に「夢のような時間を過ごせました」と言ってくださる来場者の方もいて、私ももちろん、イベント運営の担当者からイベントに関わった社員みんなが感激していました。
──福岡支店で『うまかっちゃん』に関わる社員として、「誇らしい」と感じるのはどんなときですか?
塩田:社内外問わず「地元の商品」という意識があるからか、『うまかっちゃん』の話題になると場が盛りあがりますね。お得意先でも、急に口数が増える方もいらっしゃって、ご自身のエピソードを話し始めるとか、「こんなものがあったらいいんじゃないか」と助言をいただくこともあります。
実際に、いただいた提案から『うまかっちゃん』の詰め合わせ商品の開発が実現し、福岡土産として人気の明太子煎餅『めんべい』で知られる「株式会社山口油屋福太郎」様を通じて土産店で販売されるようになりました。そんな商品はあまりないと思いますから、『うまかっちゃん』に関わる者として、誇らしい気持ちはあります。
──お二人のおすすめの『うまかっちゃん』のマル秘レシピを教えてください!
富田:元開発担当としては「裏面に書いてある作り方通りで!」と言いたいところです。本当に『うまかっちゃん』の味をそのまま味わえるのは、何も加えず、作り方通りに作る!です。その食べ方以外であれば、おすすめは『うまかっちゃん・熊本香ばしにんにく風味』を使うレシピです。まずフライパンでベーコンをカリカリになるまで炒め、さらにその脂で野菜(玉ねぎ、キャベツ、にんじんなど)を少し焦げ目がつくくらいまで炒める。『うまかっちゃん』に炒めたベーコンと野菜をのせて、特製マー油をかけて完成です。マー油、ベーコン、炒めた野菜の香ばしさがきいた『うまかっちゃん』を味わえますよ。
塩田:びっくりなんですが、私が今朝息子と一緒に食べたレシピがまさに富田さんのおすすめレシピでした!さすが同期です(笑)。私がおすすめするのは、定番の『うまかっちゃん』を使うレシピです。オイスターソースで野菜を炒め、できあがった『うまかっちゃん』にのせてください。ポイントは、野菜を炒める際に、『うまかっちゃん』の粉末スープの5分の1ほどをかけて炒めること。残りの粉末スープを『うまかっちゃん』を作る際のスープとして使ってください!
──『うまかっちゃん』は誕生当時から現在まで、福岡支店の方たちの意見が味作りにも活かされているそうですが、“現場の声”を聞くうえで心がけていることはありますか?
富田:『うまかっちゃん』の味へのアドバイスは、福岡支店だけでなく福岡工場からもいただくことがあります。皆さん、「会社の人間」として、というより、「うまかっちゃんのいちファン」として、意見を出してくれているように感じます。ファンの声を直接聞けることはありがたいことだと思います。
ただ、すべての意見をそのまま反映させるわけではなく、すでにブランドイメージがある製品にとって、何が最善かを冷静に判断するよう心がけていますね。ファンの声に真摯に耳を傾けつつ、『うまかっちゃん』の将来を見据えてバランスよく判断する姿勢が重要だと考えています。
──ハウス食品では、支店の社員が味の開発に協力するのは珍しいそうですが、その点はどう感じていますか?また、開発に協力するうえで気をつけていることはありますか?
塩田:入社して20年以上経ちますが、メーカーに入ったからにはものづくりに携わりたいという思いはずっと抱いていました。ですから、『うまかっちゃん』の開発にこうした形で関われるのはうれしいですし、地元へ恩返しをする気持ちも込めて取り組んできました。タスクチームでの経験からいうと、同じような思いを抱えている営業職の社員は多いと思います。全国各地の支店などでも、本社や開発チームと協力することで、活気が生まれて働き方やものづくりの仕組みが変わっていくきっかけになるのではないでしょうか。福岡支店は、福岡工場や関連部署、地域団体など、多くの人たちの尽力のおかげで販売活動ができているので、一体感や協力関係は大事にしていきたいです。
──『うまかっちゃん』はエリア限定製品にも関わらず、全国で販売している製品・ブランドに引けを取らない売上とのことですが、営業の際のこだわり、大切にしていることがあれば教えてください。
塩田:そうですね、当初から「九州に根ざした商品」を念頭に置いて開発されたため、福岡、博多だけでなく九州全土で盛り上がれる商品展開を常に意識しています。今後について、沖縄も含めて何かできないかと模索しているところです。「オール九州」の機運を育んでいくなかで、次世代に引き継げるような形で、わくわくできる未来につながればと思っています。
【後編】では九州の地元企業との共創や、『うまかっちゃん』の製造拠点の福岡工場についてお話を伺います。
『うまかっちゃん』と紡ぐ、九州への感謝と誇り【後編】
取材日:2025年8月
内容、所属等は取材時のものです
▶『うまかっちゃん』ブランドサイト
文:堀雅俊
写真:山中まどか、照井賢久
編集:株式会社アーク・コミュニケーションズ
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