財務戦略・担当役員メッセージ

ROICを用いた分析を通じて、グループ全体で変革に取り組み、資本収益性の向上を追求していきます。 代表取締役専務 管理本部長 兼 秘書部担当 大澤善行

足元の状況と課題認識

当社の2025年3月期における業績は、香辛・調味加工食品事業が牽引し、売上高・営業利益・経常利益が前期より増加しました。一方、親会社株主に帰属する当期純利益は2024年3月期に計上した退職給付制度改定益の反動や米国キーストーンナチュラルホールディングス社(以下、KNH社)ののれんに関する減損損失の影響で減益となりました。香辛・調味加工食品事業においては、物価や原材料価格の上昇に対し、コストダウンの取組を継続して進めながら、新たな切り口の製品投入や一部業務用スパイス製品の価格改定等を実施しました。

原材料価格の上昇は現在も続いており、2026年3月期においても価格改定の実施に踏み切る決断をしました。今後に向けては、原材料価格の上昇に対してどのように立ち向かっていくのか、成熟市場である日本のマーケットにおいて、また、グループ全体の事業展開を踏まえれば、成長を求める海外市場においてどのように戦っていくのかという課題があります。各バリューチェーン(以下、VC)ごとに、タテのつながりを強め、事業をより強固なものにするとともに、ヨコの広がりにより事業成長の可能性を高めていけるよう様々な打ち手を展開しています。

米国事業については、2025年3月期にKNH社ののれんに関する減損損失を計上しましたが、大豆系VCの成長に向けて足元の施策を検証するとともに、今後の成長に向けて、グループ本社が直接関与して立て直しに取り組んでいます。

ROICマネジメントと資本収益性の追求

当社グループは、グループ理念として「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくるグッドパートナーをめざします。」を掲げています。すべてのステークホルダーのグッドパートナーとして成長していくため、「5つの経営指標」(ATO、ROS、ROA、自己資本比率、ROE)を設け、あるべきプロポーションをめざすことを方針としています。ただ、これまでの実際の取組を振り返ると、PL(損益計算書)を中心とした見方のなかで、トップラインの向上や製品別の損益管理に注力し、BS(貸借対照表)に関する議論や取組が不足していました。

5つの指標<あるべきプロポーションを示す5つの指標> ①ATO(総資本回転率)売上高÷総資産 ②ROS(売上高営業利益率)営業利益÷売上高 ③ROA(総資産営業利益率)営業利益÷総資産=ATO✕ROS ④自己資本比率 自己資本÷総資産 ⑤ROE(自己資本当期純利益率)当期純利益÷自己資本=ROA(税引き後調整)✕財務レバレッジ(自己資本比率/1)

このような認識に対して、「5つの経営指標」のうちベストプラクティス指標であるATO、ROS、ROAをあるべき姿に近づけていくとともに、資本コストを意識した経営を進めるために投資収益性の向上を図るべく、ROAと資本コストを比較できる新たな経営指標としてROIC(投下資本利益率)を第八次中期計画(以下、八次中計)より導入しました。

ROICの改善に向けては、本業の資本収益性を測る「事業ROIC」と、投下資本に占める事業性資本の割合を測る「事業性資本割合」に分解し、「事業ROIC」の改善については、既存設備および新規投資の投資収益性向上に向けた取組を進め、第九次中期計画(以下、九次中計)での向上を確かなものとしていきます。

既存設備においては、設備ROICと称して「限界利益率」「稼働率」「設備効率」の3要素に分解し、各製品の製造ライン別に収益性や採算性を見つめ直すことで、各製造ラインの特徴や課題を把握することができ、投資収益性の課題はコア事業にあるとあらためて認識しました。これまでの当社グループにおける設備投資の考え方は、積み重ねた経験・ノウハウに基づいたルウ製品中心の発想となりがちで、カテゴリーによって限界利益率や適正な稼働率も異なることからルウ以外の製品に対して従来の発想での投資では、投資収益性に課題が生じてしまいます。設備ROICの3要素の分解により課題を明らかにすることで、部門ごとのミッションが日々の仕事で明確になり、様々なポジションのメンバーに対して、PLとBSを結びつけた理解および行動変革を促進していきます。具体的には、限界利益率については主に研究部門と生産部門が改善に取り組み、稼働率は製品開発部門やマーケティング部門、販売部門が着実に施策を打つことによって向上を図り、設備効率は技術部門、生産部門が投資生産性の向上に取り組むなど役割を明確にし、さらにその役割を連動させて設備ROICを向上させていきます。

加えて、新規投資においては投資判断基準を見直し、ハードルレートを引き上げることで、投資に対する厳格な判断、意思決定につなげていきます。これまでM&Aなどの事業投資を対象に評価・モニタリングを行っていた投資委員会において、2026年3月期以降は重要な設備投資に対しても評価・検証を行っていくこととしました。単に投資のゴー・ストップを評価するということだけでなく、3要素の分解からリスクと機会を認識し、確かな投資リターンを獲得するため打ち手の検討を高度化させていきます。

一方、「事業性資本割合」については、政策保有株式の縮減、固定資産の売却の推進、株主還元により、2027年3月期に90.0%以上とすることをめざします。政策保有株式については、八次中計期間中に150億円の縮減を計画しており、着実に進めています。

ROICマネジメントを導入するにあたっては、社員の理解を深めるべく、社員向け決算説明会などの機会を通じて、経営トップからもROIC導入の意義や考え方を積極的に説明しています。グループ内のある部門では、会計部門と連携してROICマネジメントに関する学習を実施するなど自発的な取組も始まっており、社員の意識にも変化が見られ、考え方が浸透していることを実感しています。今後、VC構想を発展させていくなかでROICマネジメントを定着させ、川上・川中・川下それぞれの事業特性に合った形で投資収益性を追求してまいります。

第八次・第九次中期計画連結数値目標

グローバルなVC構築に向けた成長投資と株主還元

八次中計では、成長分野への積極的な投資を進め、九次中計以降にそのリターンを獲得していく計画です。グローバルなVC構築に向けて、スパイス系VCの生産最適化、大豆系VCの成長投資、グローバル成長を加速させるM&Aなどに向けて、成長戦略・事業投資500億円、基盤強化投資(DX・環境を含む)200億円を計画しています。

2025年3月期においては、外食産業におけるニーズの多様化と人手不足を背景に、業務用レトルト食品の需要が拡大していることから、2026年の稼働に向けて、多品種変量生産が可能な生産設備を導入した業務用レトルト食品の新工場であるハウス食品グループ東北工場の建設を進めるとともに、国内スパイス包装拠点の再編などを進め、150億円の投資を実行しました。

そして、2026年3月期においては、ハウス食品グループ東北工場建設のほか、インドネシアにおける新工場の建設などに、232億円の投資を計画しています。インドネシアの新工場では、家庭用および業務用ハラル認証を取得したカレールウ製品の生産を2027年に開始する予定です。先進小売業だけでなく、現地の伝統小売り(トラディショナルトレード)でも購入いただけるように、従来型のルウではなく個包装の製品の展開を進めています。また、製造した製品はインドネシア国内だけでなく、世界のハラル市場にも販売を広げていき、売上高100億円規模の事業創出をめざします。

株主還元については、2025年3月期より新たに①総還元性向40%以上、②安定配当として年間配当金額46円以上の継続的配当を方針とし、八次中計期間においては、政策保有株式の縮減を原資とした自己株式取得を進めることから、総還元性向50%以上をめざしています。この方針に基づき、2025年3月期の1株当たり年間配当金は前期より1円増配の48円としました。加えて、自己株式の取得については、八次中計期間に150億円を計画していましたが、2025年3月期に60億円を実施し、2026年3月期には100億円を予定しており、前倒しで実行しています。

グローバルなVC構築に向けた成長投資と株主還元

企業価値向上に向けたステークホルダーの皆様とのコミュニケーション

当社のPBRは2025年3月期現在1.0倍を下回っており、課題として認識しています。PERは21倍程度で推移し、一方、ROEは2025年3月期において4.3%、過去5年平均においても5%を下回っていることから、ROEの改善が不可欠です。まず、当社が認識している資本コスト6.0%を超える水準に引き上げることが急務であり、そのためには、新たな指標として取り組んでいるROICを高めるための取組に注力し、結果を出していくことによって、マーケットからのご評価をいただけるように取り組んでいきます。

また、当社の成長戦略をステークホルダーの皆様にご理解、ご期待いただけるように、IR部門と連携し、八次中計でめざしていることや取り組んでいること、進捗状況をよりわかりやすくご説明し、当社の企業価値向上につながるようにしていかなければならないと強い認識を持っています。

株主総会やスモールミーティング、ラージミーティングにおける当社トップの姿勢のとおり、株主・投資家の皆様とは丁寧に、実直にコミュニケーション、意思疎通を図っています。皆様からいただく様々なご意見に真摯に耳を傾けながら、どのようなところを改善すべきなのか、さらにご理解いただくためにはどのような説明が必要なのか、弛まぬ改善を進めてまいります。