サステナブルな未来をめざして。壱番屋の挑戦

サステナブルな未来をめざして。壱番屋の挑戦

環境への配慮が随所に感じられる店舗デザインと、お客様が安心して過ごせる居心地の良さ。2024年10月、カレーハウスCoCo壱番屋は金沢小坂店を環境配慮型店舗としてオープンしました。環境負荷削減のための設備を最大限取り入れつつ、店舗としての魅力も引き出すことをめざしました。

予定していた金沢小坂店の建て替えにあたり、もともとは通常店として進んでいたプロジェクトを、環境配慮型店舗とすることに方向転換しました。 このプロジェクトの中心で活躍したのが、CoCo壱番屋の運営会社である壱番屋総務部の亀井直さんです。

当初は「自分は脇役だ」と思っていた亀井さんですが、次第に自身が主軸となってこのプロジェクトを動かすのだと意識するようになったといいます。そんな亀井さんに、このプロジェクト実現までについてのお話を伺いました。

株式会社壱番屋 亀井 直(かめい ただし)

株式会社壱番屋 亀井 直(かめい ただし)

2005年株式会社壱番屋入社。店舗での店長経験を経て、2010年に営業部のSV(スーパーバイザー)に昇進。約12年間の営業部での経験を経て、2017年以降は人事部、情報システム部、販売促進部を経験する。2023年に総務部に着任し、壱番屋としての環境配慮型店舗プロジェクト第1号案件に関わる。現在はCSR関連を中心に担当している。20年来CoCo壱番屋のカレーを愛し、「ビーフカレー+チキンにこみ+ハーフチーズMIX」が最近のおすすめメニュー。

あるひと言で「自分のやるべき仕事」が見えてきた

あるひと言で「自分のやるべき仕事」が見えてきた

──亀井さんが壱番屋に入社した理由と、これまでの業務経験について教えていただけますか。
亀井:壱番屋のフランチャイズオーナーとして店舗経営をしたら、将来、経済的に安定するのではないか──。大学時代、バドミントンばかりしていた私は、そんな安直な考えから壱番屋に入社しました。独立への思いを秘め、社員として働き始めたのですが、当時の上司だったSV(スーパーバイザー)がものすごく輝いて見えたことと、自分自身も1~2店舗を任されるだけではなく、多くの人と関わりたいと思うようになったことから、営業部でSVになりたい、本部で働きたいという気持ちが芽生えてきました。

入社後約12年間は営業部に所属して、店舗の店長やSV、営業部の課長を経験しました。しっかりと現場を知った上で、その後は人事部、情報システム部、販売促進部などを経験し、2023年から現在の総務部に配属されました。でも、着任当初は総務部での業務内容が全くわかっていなかったんです。

あるひと言で「自分のやるべき仕事」が見えてきた

――亀井さんが環境配慮型店舗プロジェクトを担当することになった経緯や、環境への関心が高まった瞬間などのエピソードを教えてください。
亀井:もともと総務部の中で、「環境配慮型店舗」の構想はあったのですが、まだ全然話が進んでいない状態だったんです。私自身、店舗経験もあるし、「店舗」とついている企画なのでやってみたいという気持ちを総務部長に伝え、スタートラインに立つことになりました。当初は、環境や地球温暖化について、業務の一環として少し詳しくなっておかないといけないかなくらいの感覚でしたね。

計画段階では資料作成を任され、いろいろとまとまった段階で担当役員に報告に行きました。実は報告したときは「まだ実行段階ではないだろうな」と思っていたんです。環境配慮型店舗の報告をしても、それだけで終わるかなと勝手に想像していました。でも報告し終えたときに、「で、どこでやるの?」って聞かれたんです。私は「ええっ?はやっ!」と反応してしまいました(笑)。 

担当役員に「このエリアの、この店でやります」という具体的な報告がないことを指摘されたわけです。本音で言うと、新規店舗の立ち上げなど、店舗に関わることについては他の部署が担当していますので、立案したとしても私たちは脇役的存在にすぎないと思い込んでいました。
しかし、「どこでやるの?」というひと言が、「俺、ひょっとして主役だったのか?」と、スイッチが入った瞬間でした。

チーム一丸となって進めたプロジェクト

チーム一丸となって進めたプロジェクト

──環境配慮型店舗の出店地を金沢という場所に選定するまでの経緯と、プロジェクトを進める中で直面した苦労について教えてください。
亀井:CoCo壱番屋の出店は、既存の建物にテナントとして入っていくケースが多いです。このため、環境に配慮をした設備を投入しようとしても限られたものになってしまいます。「環境配慮型店舗」と呼ぶためには、やはり出店時のCO2削減効果が大きい「木造建築」が必須条件でした。すでに建てられたビルや一軒家の建物を借りてCoCo壱番屋という看板を掛けるのでは、達成できないと思っていました。そもそも新築での出店は非常に難しいという感覚もあって、出店地域の話には頭が追いついていませんでした。そんななか、すべての条件が整った場所が石川県金沢市にあったのです。

実はこの金沢小坂店は、建築を担当するストアクリエイション部がすでに通常店舗として出店することに着手していたのですが、会社が「環境配慮型店舗に変更しよう!」と方針を転換してくれたのです。会社として、そこまで環境問題への取り組みに対して意識が高まっていることに驚きました。

チーム一丸となって進めたプロジェクト

──環境配慮型店舗のプロジェクトの取り組みのなかで、亀井さんが最も達成感を感じたことはどんなことでしたか。
亀井:まさしく直面した苦労を乗り越えたという点になりますが、ひと言で言うと、「チーム一丸」ということだと思います。関係部署にはそれぞれにたいへんお世話になりました。経営企画室には、取締役会で報告する上でいろいろとフォローしてもらいましたし、ストアクリエイション部は建築のプロ集団で、建築面での要望を具現化してくれました。

そして、お客様や店舗を運営する従業員に直接関わる設備や備品については、使いづらくないか、足りないものはないかといった目線で、お店に一番近い立場の営業部にチェックをしてもらいました。購買部には、制服や容器、包材といった環境に配慮した製品を調達してもらいました。環境に配慮したモノは世の中にたくさんありますが、価格面で全く折り合いがつかなかったりします。そんななかで、購買部が一生懸命に探してきてくれました。そして総務部は、私を含めて3人で担当しましたが、全体の調整をするプロデューサー的な役割を担っていました。総務部を含めて5部署でいろいろと連携を取りながら進めていったわけです。

さらに各部署から集まったメンバーで構成する環境対策委員会があります。ここでも環境配慮型店舗をテーマとして挙げ、メンバーから意見をもらいながら進めていきました。

気づいたときには環境に配慮した意識にシフトしていた

気づいたときには環境に配慮した意識にシフトしていた

──プロジェクトに関わる前後で、日常生活や仕事の中で、環境問題に対する自分自身の意識の変化などはありましたか?
亀井:実は、壱番屋本社や各事業所では毎週金曜日、「環境に優しいDay」と称して、節電のために照明やエアコンのスイッチを切り、全員17時に上がるという取り組みをしています。数ヶ月前、社内報の企画で「17時に上がって何をしていますか?」という質問がありました。私は何をしようと考えたときに、妻と買い物に行くことを金曜日の習慣にしたんです。その習慣を続けているなかで、妻が私の行動が変わっていることを教えてくれました。
スーパーって、賞味期限の近いものは閉店間際になると値引きのシールを貼ってくれるじゃないですか。
以前は単純にラッキーと思うくらいだったのですが、「賞味期限が近いものを買うことで少しでも環境にいいことをしたい」という感覚に無意識のうちにシフトしていたんです。自分では気づいていなかったことですが、賞味期限が近いものから買うという私の行動の変化に妻は気づいていたみたいで。日々業務に取り組むなかで、意識的に行動を変えたというよりも、気がついたら自分の意識が変わっていました。

ほかにも、ペットボトルをリサイクルしてつくられたポロシャツやスニーカーのような “環境に配慮した”というストーリーのある製品に興味をひかれるようになりました。今もCO₂の排出量を極限まで減らしたという靴を履いています。それとマイ水筒に水を入れて飲んでいますが、ゴミを出していない自分に満足といった感覚がありますね。ちょっと大げさですが、幸せを感じる瞬間です。

気づいたときには環境に配慮した意識にシフトしていた

──休日の過ごし方や趣味などの面で変わったことはありましたか。
亀井:妻の実家がお寺なのですが、広い敷地の中に放置されている畑があって、その畑を甦らせました。お寺には今も7人住んでいるのですが、平均年齢86歳と高齢化しているため力仕事はできません。でも耕運機などの機具だけはそろっていたので、耕運機の使い方を教わって、牛糞を入れたり、石灰を入れたりして土を作って、畝を作ってナイロンをかぶせて…というところまで自分でやりました。
畑を耕したり種や苗の準備までは私がしていますが、植え付けや水やりはお寺の方たちがしてくれていて、収穫した作物をもらっています。今ではその趣味のために購入した軽トラに乗って通勤しています。軽トラで通勤している人は他にいないので、同僚からは変なヤツだなと思われていると思いますよ(笑)。

こだわったのは「木造建築」であること

こだわったのは「木造建築」であること

──環境配慮型店舗のデザインや設計で特にこだわった点、環境配慮型店舗ならではの特徴や挑戦といったものはありましたか。
亀井:この店舗の大きな特徴として挙げられるのは「木造建築」を採用したことです。木造建築は鉄骨造で新築した場合と比較して、建築時にCO₂の排出量を約29トンも削減できるのです。ほかにも遮熱性・断熱性の高いガラスになっているとか、外壁にオフセットサイディングというエコな材料を使っているといったことはありますが、こうしたことは一般のお客様にはなかなか伝わらないかと思います。
そこで、環境面で今までのCoCo壱番屋と違うと思ってもらうためにも、木材が見える梁や軒下など、お客様が実際に見て「木造建築だ」とわかる店舗にしてほしいという要望をストアクリエイション部に出しました。

──お客様が普通に食べに来てわかるのが大事だということですね。
亀井:そうですね。加えて、今回我々の目的は環境に配慮した店舗をつくることではありますが、そればかり主張していると、単に総務部のわがままになってしまいます。環境配慮という要素にさらにお客様を引き込むスパイスが入っていないと、営業担当が納得してくれません。このことは自分の営業経験からも理解していました。そこで環境とセットで考えていたのが「デザイン性の高さ」です。「おしゃれだな、入ってみたいな。いい雰囲気だな」と感じられるデザイン性が加わって、最終的にイメージ通りになってくれました。おかげで、他店舗と全然違う雰囲気が生まれ、タクシーの運転手さんからも「カフェですか?」と聞かれたほどです。

こだわったのは「木造建築」であること

──今回導入した設備やシステムで特に特徴的なものを教えてください。
亀井:いろいろなリサイクルループを取り入れていますが、やはり「ゴミを発生させない」ことが重要で、今回導入した生ゴミ処理機は、1日当たり20kgまでの処理が可能です。この生ゴミ処理機を使用することによって、廃棄する生ゴミをゼロにすることが可能となりました。生ゴミはおおよそ24時間で分解されて、分解水はそのまま下水道へ排出することができます。

あとは制服ですね。制服にはオニベジという環境配慮型素材が使われています。タマネギの外皮から抽出した成分をベースにした植物の天然色素で染めたものです。帽子、シャツ、エプロンと、すべてその素材を使っています。

こだわったのは「木造建築」であること

亀井:外観からカフェかと思っていらしたお客様が、おしゃれなCoCo壱番屋だと知って、入ってきてくれる。さらに中に入ってすてきな空間だなと感じていただく。そしてスタッフがまたちょっと違う制服を着て接客してくれるという流れです。外から中に入って、テーブルについてからもさらに違う印象を持ってもらえることになります。このほか、金沢小坂店には杉の香りのディフューザーやペット用のリードフックなども設置して、これまでのCoCo壱番屋とは違った演出もトライアル的に取り入れています。

こだわったのは「木造建築」であること

──店舗の設備やデザインについて、お客様や従業員からはどのような反響がありましたか。

亀井:従業員からは「おしゃれになった。明るくなった」という声を何度も聞いています。 実はこの金沢小坂店は移転物件で、以前の店舗はここから北に400mのところにありました。移転前の店舗では営業部として担当していたことがありますが、今回、明らかにお客様の層が変わったなと感じています。自転車で来てくれる学生さんが増えましたし、お客様が少ないアイドルタイムに「高校生たちが楽しそうに過ごしていた」という話を従業員から聞きました。以前の店舗では見なかった光景なので、とても驚いています。

以前の店舗では高校生がカフェタイムに友人同士で過ごすということはまったくなかったことなんです。元から店舗に通ってくださっていたお客様はもちろんですが、今までの客層とは異なる多くのお客様にご来店いただけているということは、本当にうれしいことですね。 

環境への取り組みが、Win-Win-Winの形につながる

環境への取り組みが、Win-Win-Winの形につながる

──今後は環境配慮型店舗をどう展開していくのでしょうか。壱番屋としての展望、そして亀井さんご自身の目標などを教えてください。
亀井:今回の金沢小坂店は環境配慮装備がフルに盛り込まれた店舗です。店舗によって条件が違いますので、今後、これと全く同様のことができるかというと、そうではありません。ですので、より環境に良いものを選ぶということを出店や改装の際の一つの基準として、バランスを見ながら選択していきたいと思っています。金沢小坂店はそのためのモデル店舗と位置づけています。

壱番屋では「壱番屋長期ビジョン2030」を策定しており、その重点項目の一つとして食品ロスの削減や地球温暖化防止といった社会課題の解決に積極的に取り組むことを定めました。2030年をめざして、「環境」への取り組みはこれから更に力を入れていくべき分野だと考えています。「環境に優しい取り組み」をしているかどうかは、外食企業においても重要性を増してくると思います。

そしてフードロスを減らすために賞味期限に近いものから購入するなど、環境に配慮することに満足感を感じる人が世の中の大多数になってくれれば、会社もお店も、またその人自身にとってもWin-Win-Winの形になっていきます。環境へのいろいろな取り組みを通じて、世の中全体がそうなっていってくれるといいですね。

――最後に、亀井さんが思うCoCo壱番屋の魅力を教えてください。
亀井:食べ物がおいしく感じる瞬間は、「空腹感」と「そのときに一番食べたいもの」が重なるときだと思っています。CoCo壱番屋では、豊富なメニュー、量、辛さのバリエーションがあるため、そのときの気分や食欲にぴったりのカレーを選ぶことができます。毎回自分が「今、一番食べたい」と感じるものを思う存分楽しめるのが、CoCo壱番屋の魅力だと思います。

環境への取り組みが、Win-Win-Winの形につながる

ハウス食品グループ本社は2024年の新中期計画で環境に力を入れていくこと、特に気候変動への対応や資源循環社会の実現といった重要課題を掲げ、循環型モデルをめざすことを明言しています。

環境への取り組みを推進するハウス食品グループの一員としても、環境問題といった社会課題の解決に積極的に取り組んでいきたいと亀井さんは言います。壱番屋は金沢小坂店の挑戦をきっかけに、持続可能な未来に向けた取り組みに一層力を入れていくと語ってくれました。

壱番屋、そしてハウス食品グループのこれからの取り組みが、より良い明日を築く一歩となることでしょう。


CoCo壱番屋

壱番屋の環境への取り組みはこちら

取材日:2024年11月
内容、所属等は取材時のものです

文:柴山幸夫(有限会社デクスト)
写真:片桐圭
編集:株式会社アーク・コミュニケーションズ


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