未来へつなぐ−気候変動への取り組み

未来へつなぐ−気候変動への取り組み

気候変動や森林破壊、大気汚染、海洋汚染、資源の枯渇――
私たち人間の様々な活動が原因となって生じる環境問題は、世界的にも喫緊の課題です。同時に、政府が目標を定め、自治体や企業おいても対策が求められています。

ハウス食品グループは、「地球環境の大切さを十分認識し、環境に配慮した企業活動を通して恵み豊かな地球の存続に貢献する」という理念を持って環境問題に取り組んでいます。そのひとつである「気候変動への対応」の主要プロジェクトとして、今春から運用を開始したのが「多拠点一括エネルギーネットワークサービス(JFE-METS)」です。

今回は「JFE-METS」を提供するJFEエンジニアリングの西村武彦さんをゲストに迎え、このプロジェクトを中心となって進めてきたハウス食品グループ本社サステナビリティ推進部の出口昌義さんに話を聞きました。 

西村武彦

JFEエンジニアリング株式会社 西村武彦(にしむら たけひこ)

2014年JFEエンジニアリング入社。バイオマスや地熱等の発電プラント建設工事の営業職を経て、2018年からエネルギーサービス事業推進部の営業グループに配属され、2022年から営業グループマネージャーに。地方のお店で飲むのが好きで、出張や旅先では隠れた名店を開拓している。

出口 昌義

ハウス食品グループ本社株式会社 出口 昌義(でぐち まさよし)

1991年ハウス食品工業株式会社入社(現・ハウス食品株式会社)。29年間生産活動に従事。品質管理、改善活動、原価管理など幅広く経験。2020年からハウス食品グループ本社株式会社へ異動し、現在のサステナビリティ推進部でグループ中期経営計画の環境を担当。グローバルにグループ全体の環境戦略に取り組む。常に「あと一歩だけ前に進もう」を自分に言い聞かせながら、どうせやるなら楽しく、を心がけて社会問題の解決に取り組んでいる。

二人三脚で乗り越えたプロジェクト

2024年4月、ハウス食品グループは、JFEエンジニアリングが提供する電力融通サービス「JFE-METS」の運用を開始しました。このサービスは、発電拠点であるハウス食品の静岡工場で自社発電した余剰電力に、JFEエンジニアリンググループが保有する電力を加え、送電ネットワークを活用してハウス食品グループの国内8社18拠点に電力を融通するものです。このプロジェクトを中心となって進めてきたのが、出口さんと西村さんでした。

二人三脚で乗り越えたプロジェクト

「まずお伝えしたいのは、このプロジェクトは決して私たち二人だけで取り組んできたわけではなく、多くの方々の理解と協力を得て、JFEエンジニアリングさんとハウス食品グループが二人三脚で成し遂げた、ということです。最初にJFEエンジニアリングの関連会社さんから本サービスをご紹介いただいたのは、私が着任する2年前の2018年のことで、CO₂とコストの両方を削減できる点に魅力を感じて検討を進め、2020年からは本格的にデータ分析に着手しました」(出口)

同年10月頃にはCO₂削減メリットが提示され、環境問題への取り組みとして有用であることが具体的にわかってきた一方で、多拠点のエネルギーを一括して管理するためには、多くの部署や関連会社を巻き込む必要があるというハードルの高さも見えてきたそうです。

「私がこの部門に着任したのは2020年4月ですが、当時のメンバーから『こういう提案があるがなかなか話が進まない』と相談を受けたんです。そこで、やめることはいつでもできる、まずは前向きに進めよう、とアクセルを踏みました」(出口)

実現に向け、電力の融通先となるグループ各社や各部署との調整に乗り出した出口さんたち。しかし、交渉は難航を極めました。プロジェクトの規模が大きく、15年という長期契約を前提としていることもあって、グループ各社では経営判断が必要だったのです。交渉や経営への説明に、実に60回以上も要したといいます。

二人三脚で乗り越えたプロジェクト

「これまで、グループ会社は拠点ごとに地元の電力会社と契約を結んでおり、なかには安価な電力を契約しているところもありました。そうしたつながりを断ってまで導入すべきサービスなのか?果たして本当にメリットがあるのか?スキームは確かなのか?毎回様々な質問を浴びました。私も環境問題についてはどちらかというと知見がないほうでしたので、西村さんに常に知識をインプットしてもらって交渉に臨みました」(出口)

「電力体系は複雑でシミュレーションが難しく、スキームも簡単には理解しづらいんです。まずは担当者である出口さんに本サービスのよさを実感していただかないと、自信を持ってグループ会社様にご説明できないだろうと感じていました。様々な質問を想定して回答を一緒に考え、どうすれば出口さんがグループ会社の皆さんに説明しやすいかを意識して資料作りに取り組みました」(JFE西村)

当時は、社内の環境リテラシーが現在ほど高まっておらず、CO₂削減についてもなかなか理解を得られない状況でした。そこで、2021年4月からスタートする第七次中期経営計画(3カ年)で策定した環境取り組みをもって各社をまわり、経営レベルでのCO₂削減取り組みの重要性をくり返し伝えたそうです。

その追い風となったのが、2020年10月の政府による「カーボンニュートラル宣言」。2050年までにCO₂をはじめとする温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、脱炭素社会の実現をめざすという政府発表です。このおかげで中期経営計画でCO₂削減に本気で取り組むことの必要性が、徐々に理解されるようになりました。

ピンチをチャンスに!ターニングポイントは2022年

こうして順調に歩みを進めていた2022年、ロシアがウクライナに全面侵攻を開始。このウクライナ危機は、世界中のエネルギー市場に大きな影響を及ぼします。日本も例外ではなく、原油や天然ガスなどのエネルギー価格や資材費用が跳ね上がりました。当然、プロジェクトも影響を受け、サービス導入のコストメリットが当初予定していた数字の3分の1程度まで減ることがわかったのです。想定外の事態に、JFEエンジニアリング側もコストメリットを見直すため、検討スピードを緩めざるを得なくなりました。

しかしピンチの一方で、電力の長期安定供給ニーズが高まったのもこの時期だった、と西村さんは振り返ります。

ピンチをチャンスに!ターニングポイントは2022年

「当時、グループ会社様の中には、電力市場の高騰から契約していた電力会社が撤退してしまったり、契約がうまくいかなくなって、電力ひっ迫にさらされたところもあると聞いていました。そこで、弊社グループの電力会社であるアーバンエナジーは自社電源を十分に保有していることや、財務的に安定していることを粘り強くご説明したんです」(JFE西村)

いったんブレーキがかかったことで、逆に「このチャンスを逃してはならない」という気運が高まったそうです。

「電力やガスの価格が大幅に値上がりし、『いつ電力契約が切られてしまうかわからない』という危機感がグループ各社に生まれたことで、自社グループに発電拠点を持つことの意義と、それを15年も担保できることの重要さが理解されたことは大きな進展でした。『サービス導入を早められないか?』といった問い合わせも増え、風向きが変わったと感じましたね」(出口)

ピンチをチャンスに!ターニングポイントは2022年

こうして、ハウス食品グループ本社とJFEエンジニアリングとの協力が実を結び、2024年4月にサービス運用がスタート。5月に行われた運用開始記念式典では「実は、ちょっとウルッときてしまった」と出口さんは笑います。

「グループ各社との交渉の場では議論が激しくなることもありました。多くの苦労を乗り越えてきたという思いが、瞬間的にこみ上げてきて。恥ずかしいから、涙は流すまいと努力しましたよ(笑)。振り返ってみれば、グループ会社と対話を持つことで関係も深まったと思いますし、私自身もエネルギーや環境問題について学ぶ好機になったと感じています」(出口)

ピンチをチャンスに!ターニングポイントは2022年

「運用開始となってホッとした反面、ここがスタートだと身が引き締まる思いでした。私自身、エネルギーサービス事業推進部で最初に取り組んだのが本プロジェクトなんです。提案から導入まで一貫して担当し、ハウス食品グループさんに育てていただいたという思いがあります。サステナビリティ推進部の皆さんをはじめ、ハウス食品生産・SCM企画推進部の皆さんとも検討開始から長期間にわたり密に連絡を取らせていただきました。また、建設フェーズに入ると静岡工場の方々とも時間をかけて協議させていただき、本当に感謝しております。」(JFE西村)

西村さんはこのプロジェクトに強い思い入れがあり、当初は説明がうまくいかず苦労したと笑いながら振り返ります。一方で、出口さんは「無理なお願いも多かったと思うが、そのたびに西村さんがしっかり対応してくれた」と話します。 

ピンチをチャンスに!ターニングポイントは2022年

「環境面についてもコスト面についても、短期間にいろいろな要求をしましたが、西村さんがしっかり応えてくださった。だからこそ、安心して私たちも交渉の場に臨めたと思っています」(出口)

18拠点で使用するエネルギーを100%賄える画期的なシステム

18拠点で使用するエネルギーを100%賄える画期的なシステム

JFE-METSは、静岡工場に新設した「ガスコージェネレーションシステム」で発電した電力を、ハウス食品グループの国内8社18拠点に融通するサービスです。このサービス導入により、対象拠点のCO₂排出量を16.3%(2022年度比)、静岡工場のエネルギー使用量を21.5%(2020年度比)削減できるようになりました。設置したガスコージェネレーションシステムは、約1万2000世帯相当の発電能力を有し、アーバンエナジーの補給電力も含めて、対象拠点で使用する電力の100%を賄える見込みです。

18拠点で使用するエネルギーを100%賄える画期的なシステム

「都市ガス等を利用して発電するガスコージェネレーションシステムでは、発電と同時に発生する『熱』を、『蒸気』と『温水』に変えて有効活用します。排熱を利用して水を蒸気に変えるため、効率よくガスから電気と熱の両方を取り出せるわけです。ハウス食品グループさんは、カレーなど製品の製造時に蒸気と温水を多く使用するため、発生する熱を無駄なく活用でき、より高いエネルギー効率の実現につながっています。余った電力はグループ会社に融通されます。この電力は効率よく発電しているためCO₂の排出が少なく、かつ価格も抑えられます。このスキームを実現するのに必須なのが、アーバンエナジー株式会社という私どもの電力会社で、電力が余ったら引き取り、不足したら供給する需給調整機能を持っている点が特長です。ガスコージェネレーションシステムで発電した低炭素の電力と、アーバンエナジーの非化石電源を合わせて供給する仕組みで、省エネとCO₂削減、そして経済性の両立を図っています」(JFE西村)

設置されたガスコージェネレーションシステムの建屋外壁には、ハウス食品グループ本社のキャラクターである「リンゴキッドとなかまたち」が描かれ、明るい雰囲気になっています。

18拠点で使用するエネルギーを100%賄える画期的なシステム

「リンゴキッドとなかまたち8人は、グループ8社がそろって環境問題に取り組み、地球を守っていくという連携を表現しています。静岡工場では一般の方の工場見学を受け入れていますから、今後ぜひ見学ルートに組み込んで、地域の方々にも私たちの取り組みを発信していきたいですね」(出口)

「循環型モデル」とハウス食品グループがめざす未来

「循環型モデル」とハウス食品グループがめざす未来

ハウス食品グループは、食を通じておいしさと健康を届ける企業として、食品バリューチェーンを持続可能にし、限りある資源を価値につなげる「循環型モデル」の構築をめざしています。レトルトをはじめ、製品を製造するうえで、多くの電力を使用しているため、CO₂削減という気候変動への対応は重要課題。CO₂削減効果の大きいJFE-METSの構築は、その主要な施策でした。しかし、これはゴールではなく、カーボンニュートラルに向けてのスタートだ、と二人は語ります。

「循環型モデル」とハウス食品グループがめざす未来

「ハウス食品グループさんとは4年半という時間をかけて良好な関係を築いてきました。当社はほかにも太陽光発電や蓄電池といったエネルギー関連事業に携わっていますし、廃棄物分野では食品残渣からバイオガスを発生させそれを燃料に発電し、電気に変えてお客様にお返しするといった取り組みも行っていますので、今後もハウス食品グループさんがめざす循環型モデルに寄与できることがたくさんあると思います。注目されはじめている水素発電やアンモニア発電についても視野に入れながら、世の中に先駆けてご提案していきたいと考えています」(JFE西村)

「循環型モデル」とハウス食品グループがめざす未来

「環境問題への取り組みは、私たちの部署だけが担っているわけではなく、グループ全体一丸となって実践していくものです。今回のJFE-METS導入の目先のメリットはコスト削減かもしれませんが、私たちはこれをカーボンニュートラル達成に向けての土台であると捉えています。いまはガスで発電していますが、いずれ水素や合成メタンのようにCO₂が出ない燃料に置き換えることで、オセロのようにパタパタと一気にカーボンニュートラルに向けて加速させていきたいと思っています。JFEエンジニアリングさんとは、燃料がガスから次世代エネルギーに変わる転換期においても、連携を続けていきたい。契約期間の15年にとどまらず、脱炭素社会の実現まで、二人三脚で歩んでいけたらと思っています」(出口)

ハウス食品グループは、気候変動だけにとどまらず、様々な環境課題解決に向けて、これからもCO₂削減の取り組みをグループ全体で進めてまいります。


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JFEエンジニアリング株式会社

取材日:2024年7月
内容、所属等は取材時のものです


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