2年連続「世界幸福度ランキング」1位を獲得し、近年とくに注目される機会の多い北欧の小国フィンランド。最近では、34歳の女性首相が率いる、女性党首たち中心の新政権の誕生も、世界的ニュースとなりました。では、フィンランドの家庭ではどのような考えのもと家事を行っているのでしょうか。その考え方や実際の家事の様子をご紹介します。
今日のフィンランド社会には、働ける環境にあるなら男女ともに仕事を持って当然という意識が深く浸透しています。子どもを授かり産休や育休を消化したあとも、両親共に職場へ完全復帰するのが一般的です。ちなみにフィンランドの社会保障制度としては3つの休業制度が整っています。
・「父親休業(2歳までに、合計で9週間まで父親が取得できる休業期間)」
・「母親休業(予定日の40日前から取るのが一般的で、予定日の50営業日前から取ることができます。)」
・「両親休業(最大約6ヶ月取ることができ、両親のどちらでも取得可能)」
※また2020年2月に育児休業の期間を性別を問わず、より長くするという方針も発表されている。
「父親休業」の取得率は70%を超えていますが、男性がまるまる9週間というのはちょっとめずらしいケース。また「両親休業」は多くの場合、お母さんが取ります。早ければ子どもが9ヶ月になった頃から、託児施設に預けて職場復帰をしています。
休業制度の取得状況においては、まだ男女差はありますが、仕事も家事も家族総出で分担することが不可欠だと、母親はもちろん父親も自覚しています。また、男女格差が少ないのは、社会だけでなく、家庭でも同じ。
どの家事を誰がいつやるかは家庭によりけりですが、業務ごとに担当者がきっちり決まっている、という家庭は少ない印象です。
もちろん誰しも得意不得意はあるので、普段はそれぞれの強みを活かした分担を図るでしょう。一方、いざとなればどんな家事でもなんとかできる最低限のスキルくらいあるよ、と自信を持って答えられる大人の数は、男女関係なく、日本よりもずっと多いと思われます。
では、皆さん一体いつどこでその家事スキルを身につけたのか尋ねてみると、回答は概ね次の3つです。
フィンランドにおける女性の社会進出が進んだのはもう半世紀近く前のことなので、今の子育て世代は、すでに両親が共に働き、共に家事をする姿を見て育ち、お手伝いも当然だった人が少なくないでしょう。
フィンランドの初等教育では、家庭科にあたる科目が始まるのは7年生(日本でいう中学1年生)から。それ以前は、技術や手工芸の授業があって、男児も編み物の基本を教わったりします。家庭科の授業はかなり実践重視。料理の手順だけでなく美しい食卓セッティングまでを学ぶ調理実習や、効率良い掃除や食器洗いのヒントなど、すぐにでも自宅で試せるスキルを一通り教わるのです。
3が最も多い回答です。フィンランドでは、例え学校が自宅から通学圏内でも、義務教育修了や高校卒業をきっかけに安い学生アパートで暮らし始める人がとても多いのです。学業できちんと単位取得している学生に約5年間、返済不要の生活補助金が振り込まれたり、不動産会社から学生用に安いアパートを借りられたりといったサポートが受けられることも一人暮らしを後押ししています。逆に外食や委託サービスが高額な国なので、否応なしに自力で自炊や家事全般をこなすようになり、自活の知恵が身につくというわけです。
では、あるフィンランド人家族が実際どのように平日夜のご飯を作っているのか。その様子を覗いてみましょう。
ユヴァスキュラ市郊外の、森に囲まれた静かなエリアに一軒家を構えるハルユ家は、夫のユハさん、妻のカリタさん、そして今年小学1年生になる長男ヨエル君の3人家族です。
企業勤めのユハさんは、朝は7時半ごろ出社し、夕方は必ず4時退社を徹底します。一方カリタさんは、フィンランドならではのサウナ関連ビジネスをサポートするNPO法人の代表を務めており、日によって自宅でのリモートワークかコワーキングオフィスへの出社を選びます。バス通学をするヨエル君の帰宅時間に合わせてカリタさんがいったん仕事を切り上げ、お迎えに行きます。
ハルユ家では、平日の夕食、そして休日の昼食と夕食は、必ず3人揃って食べると決めています。ハルユ家のメインシェフは、料理が趣味の一部だというユハさん。朝食時か会社の退社前に、カリタさんに連絡を取って今晩のおかずの相談をし、買い物に寄ってから帰宅します。
メインシェフは夫のユハさんが担当。
さて、今晩のメインディッシュは、フィンランドの素朴な家庭料理の代表、マカロニのキャセロール。
マカロニのキャセロール。チーズがたっぷりでおいしそう。
茹でたマカロニやひき肉をクリームソースで和え、耐熱皿に敷き詰めてたっぷりチーズを振りかけたら、あとはオーブンで焼くだけの、シンプルながら子どもに大人気のクラシカルメニューです。
フィンランドの伝統料理には、このようにオーブンで仕上げる大皿メニューがたくさんあります。オーブン料理なら、一度焼き始めたら目を離せるので時間が有効に使えるし、一気に大量のおかずが出来上がるのもメリットです。
フィンランド人は、一回の料理の手間を思えば、平日に数日間同じメニューが食卓に並ぶことにまったく抵抗を感じません。ちょっぴり贅沢で手間暇かけた日替わりメニューは、時間的ゆとりのある週末に食べられれば十分、というくらい気楽に構えているようです。
また、この国ではメインディッシュの付け合わせといえば白米ではなくじゃがいもですが、とくにバター風味のマッシュポテトが人気。ハルユ家ではいつも、前日に余ったマッシュポテトに卵と小麦粉を混ぜて生地を作り、じゃがいもパンをリメイクします。
こちらが完成後のリメイクじゃがいもパン。
そして生地の成型は、いつも息子のヨエル君が担当します。
日常的に親子でクッキング。子どもが得意な家事を増やしていく。
ちなみに、メイン料理がオーブンに入っていくのを見届けたあとのユハさんは、二人と選手交代してしばしリビングで一休み。素晴らしいリレー作業ですね。
キッチンではカリタさんとヨエル君が奮闘中。
さて、栄養バランスを考えれば、あと一品サラダでも欲しいところですが……季節凍土の広がるこの極北の国では、冬に採れる国産野菜は限られています。ですが、野菜に匹敵するスーパーフードとして重宝されるのが、夏に庭や近隣の森で採れる、ブルーベリーなどワイルドベリーの数々!
季節収穫物の冷凍保存のためすごい量。
多くの家庭では、夏のうちに一年分を摘んで冷凍保存しておき、冬の間も少しずつ解凍して摂取します。ハルユ家にも、なんと脱衣所の洗濯機の横に巨大なサブ冷凍庫がありました!
この日は、数種類のベリーをヨーグルトと一緒にミキサーにかけて、色鮮やかなスムージーに。ここでもヨエル君は率先してお母さんのサポートをします。
キッチンがちょっと高いけど頑張るヨエル君。
マカロニのキャセロール、じゃがいもパン、そしてベリースムージーと、決して品目は多くないですが、栄養価もあり、なにより家族全員が少しずつ関わった料理の並ぶ、素敵な食卓の準備が整いました。
フィンランド人の個人消費量が世界一と言われるキャンドルにも火が灯り、たわいない会話を楽しみながらの、ほのぼのとした食事時間が過ぎてゆきます。食べ終わったあとは、各自食器を食洗機に運ぶところまでがきちんと習慣化していました。
ちなみに朝食は毎朝ほぼ同じで、トーストしたライ麦パンの上に、ハムやチーズ、きゅうりなど野菜を載せて頬張るシンプルなもの。これなら、誰かが早起きして準備をしなくても、身支度が整った人からセルフ調達して食べ始められて楽なのです。
超シンプルな朝食だが子どももできる簡単調理。
ヨエル君も、パンをトースターで焼いてバターを塗り、トッピングを載せるまでもうすべて自分でできるので、ときにはお父さんお母さんの分も率先して作ります。ちなみにフィンランドの小中学校では、毎日無料の給食が支給されるので、子どもにお弁当をもたせる必要はありません。
「夫婦も家族も、四六時中円満でハッピーというわけではもちろんないけれど、こうして一緒においしいご飯を作って食べる時間があることで、家族間での思いやりや絆、そのありがたみを日々更新し続けられるんです」と話すハルユ夫妻。おいしく食事を食べるだけでなく、一緒に作ることに絆を感じています。そんな、フィンランド人の家事分担。考え方やお料理の知恵をあなたの家族の幸福度を上げるメソッドとしてうまく取り入れてみてください!
(取材・文:こばやしあやな)
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