病気が進行しないと症状が表れにくいことから、「沈黙の臓器」とも呼ばれる肝臓。アルコールの分解機能に注目されがちですが、他にもさまざまな役割を担っています。この大切な臓器について、機能や主な病気の症状を紹介します。
おなかの中の臓器では最も大きい、肝臓の働きって?
肝臓の位置は体の右側、横隔膜の下辺り。重さは1〜1.2kg程度で、おなかの中にある臓器では最も大きいものです。臓器に出入りする血管は、基本的に動脈と静脈の2本ですが、肝臓には肝動脈と肝静脈に加えて門脈(もんみゃく)と呼ばれる静脈があり、血流量がとても豊富。再生能力が高いのも特徴で、腫瘍などを切除した際に1/7ほど残っていれば、人は生きていけると言います。
肝臓の働きには主に三つの役割があります。
一つめはたんぱく質の合成。体内のたんぱく質には、血液の凝固因子や血管内の水分を保持するアルブミンなど、さまざまな種類があります。
二つめは、胆汁をつくる機能。胆汁には、中性脂肪の消化や吸収を助ける胆汁酸が含まれています。そして三つめは、さまざまな成分の分解と解毒。薬物や毒物を無毒化して胆汁中に排出したり、アルコールを分解したりといった働きも担っています。
肝臓はまさしく“ないと生きていけない臓器”。腎臓に対する人工透析のように、これらの機能を代用できる手段がないため、肝不全を起こしてしまうと肝移植のみでしか対応できないのです。
黄疸、吐き気、疲労感…。肝臓の機能低下がもたらす症状
大切な働きを担う肝臓ですが、機能の低下を示す症状に気付きにくいという特徴があります。
たとえば疲労感は、肝機能異常の症状としてはポピュラーですが、誰もが疲れを感じるわけではありません。むしろ、肝機能異常を抱えている人で最も多いのは、何の自覚症状もない人。“沈黙の臓器”と言われるだけあって気付かれにくく、健康診断や献血などで見つかるケースが大半です。
同じように気付きにくいながらも、いくつかの初期症状があります。
■黄疸
皮膚や眼球が黄色くなる黄疸は、“ビリルビン”という胆汁色素の沈着によってできます。ビリルビンは、赤血球の中の破壊されたヘモグロビンを胆汁に排泄するために必要な成分。肝機能障害などがあると胆汁に排泄されなくなり、血液中のビリルビン濃度が上がるため、黄疸が表れるのです。
■かゆみ
ビリルビンは皮膚の末梢神経を刺激するため、強いかゆみを引き起こすことがあります。ビリルビンが適切に排泄されていないことが原因なので、内臓の機能障害を疑う症状の一つです。
■疲れ・吐き気・食欲低下
しっかり休息をとっているのに体がずっとだるい、あるいは気持ち悪いけれど吐けなかったり、食欲が出なかったりする症状がしばらく続くことがあります。その際は急性肝炎などの肝機能低下の可能性を考えて、血液検査を行うことも良いでしょう。
お酒を飲まなくても油断は禁物! 肝機能が低下する要因
健康診断の結果、肝機能で要再検査と言われたという人は、たいてい「ウイルス」「アルコール」「食生活」「薬剤」のいずれかが要因だそうです。
ウイルス性では、C型肝炎やB型肝炎などが挙げられます。過剰な飲酒が要因となるのはアルコール性肝障害や、肝細胞の中に中性脂肪が蓄積する脂肪肝。また、アルコールを摂取しない人でも、食生活の欧米化や栄養過多が脂肪肝を引き起こすことがあります。薬剤の場合は、健康診断の前に処方薬・市販薬を問わず薬を服用していると、検査結果に影響を及ぼす場合も。これは、ハーブやサプリの摂りすぎなどでも起こりうると言われています。
そのため、肝臓機能の低下を改善させるには、これらの要因を特定して遠ざけることが大切です。
ウイルス性ならウイルスの駆除を行ったり、活動を抑える薬を使って治療を。アルコール性なら禁酒し、食生活に問題があるならバランスのとれた食事を適正な量だけ摂取するようにしましょう。また、薬剤性の場合は薬を見直し、原因となる薬は休薬するとよいでしょう。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)って何? 治療法は?
アルコールを摂取しない人がかかる脂肪肝。少し前までは良性で、進行することもないと考えられていましたが、実は近年、肝炎から肝硬変、ついには肝臓がんにまで進む例が増加しているそうです。
アルコールを原因としない脂肪肝のうち、約10%は進行性。肝硬変や肝臓がんに進む可能性があり、“非アルコール性脂肪性肝炎(NASH=ナッシュ)”と呼ばれています。単純な脂肪肝との違いは炎症細胞があることですが、肝細胞を切り取って検査する“肝生検”でないと見分けることができません。
進行すると聞けば、少しでも早く治療したいと思うもの。しかし、実はまだ確立した薬物治療の方法はないと言われています。
抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンEや、糖尿病の治療に使われる薬、あるいはメタボ治療に使われる薬には、間接的な効果があると言われていますが、特効薬はまだ存在していません。そのため、食事療法や運動療法が大切となります。食事は適正な量を摂ること。摂取カロリーの目安は、1日に標準体重あたり25~35kcal/kg/日と言われています。身長160cmなら1400~2000kcal/日、身長170cmなら1600~2200kcal/日程度です。
カロリーだけではなく何を食べるかももちろん大切。肉やバターなどの動物性脂肪は控え、中性脂肪を下げる作用のある青魚などを積極的に摂りましょう。青魚には、良質なオメガ3脂肪酸も含まれています。食物繊維は不足しがちなので、野菜や海藻類、きのこ類は意識して食べると、ビタミンCやEも摂取できておすすめです。
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執筆者プロフィール
染谷 貴志(そめや たかし)
日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、All About「消化器・肝臓の病気」ガイド。虎の門病院消化器科を経て、そめや内科クリニックを開院。一番の専門は肝炎や肝癌などの肝臓領域で、「患者さんにわかりやすい医療」を常に心掛けている。
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