慢性腎臓病の方向けの食事療法として、「低たんぱく質食」が知られていますが、それはなぜなのでしょうか。今回は腎臓病食として「低たんぱく質」が必要とされる理由や、ごはんやパンなどの主食でも「低たんぱく質食」が実施される背景について見ていきましょう。
腎臓とたんぱく質の関係について
まずは腎臓とたんぱく質の関係について見ていきましょう。
エネルギー産生栄養素(エネルギーを作り出せる栄養素)は、炭水化物、脂質、たんぱく質の3つです。このうち、たんぱく質はエネルギーを産生する際に尿素窒素などの体にとって有害な物質を作り出してしまいます。
一方で、腎臓は血液をろ過して尿を作り出す臓器ですが、ろ過の際、これらの有害物質も血液から取り除いて尿として体外へ排泄します。エネルギー源としてのたんぱく質が増えると、有害物質も増えるわけですから、それだけろ過する腎臓に負担がかかり、そのため、腎臓の働きが低下している人は、たんぱく質の摂りすぎに注意が必要になるのです。
腎臓病食のキーワードは「低たんぱく、高エネルギー、低ナトリウム、低カリウム」
慢性腎不全などで腎臓の機能が低下している人は、前述の通り、ろ過の機能が弱っている状態です。そのため、なるべく腎臓に負担をかけない食生活が大事になってきます。
ただし、腎臓に負担をかけたくないからといって、たんぱく質摂取をやみくもに減らせばよいわけではありません。たんぱく質はエネルギー源としてだけでなく、体成分(筋肉、皮膚などの材料)としても大切です。そのため体成分として利用する分として、必要な量の「良質なたんぱく質」を摂取することは重要です。
では、「低たんぱく」以外のキーワード「高エネルギー、低ナトリウム、低カリウム」についても見ていきましょう。
・高エネルギー
エネルギー源としてのたんぱく質を減らすだけだと、エネルギー量が全体的に減ってしまいます。そのため、たんぱく質で補充するはずだったエネルギー源を炭水化物(糖質)と脂質で補うことになります。そのため、エネルギー比率として炭水化物と脂肪を増やす必要があります。
・低ナトリウム
食事の塩分(ナトリウム)を減らす理由は、非常に単純。体内の水分は、食塩のある所に集まります。食塩を追いかけて水が動くということは、体内に食塩が多く存在すれば、腎臓でろ過しなければならない血液の量も増えるということ。これは腎臓にとって負担がかかります。腎臓に負担がかかっている人の場合、塩分摂取量を減らしてほしいのはこれが理由です。
・低カリウム
カリウムはナトリウムと、細胞の中(カリウム)と外(ナトリウム)で引っ張り合いをすることで水分量を調節して細胞の形を一定に保っています。つまり、カリウムが多いと、ナトリウムも多く必要になります。そこで、カリウムも減らすのです。カリウムは特に生野菜に多く含まれていますので「茹でこぼし」をして、カリウムを水に溶かしだした野菜を食べるようにします。
また、「減塩しお」には「塩化ナトリウム」のかわりに「塩化カリウム」が入っています。これも腎臓が悪い人にはNG。高血圧などで減塩しおの利用を考えている人も、腎臓に負担がかかっていないことを確かめてから使うようにしてください。
意外!? 米や小麦にもたんぱく質は含まれる
腎臓病だからといって、食べてはいけない食品があるわけではありません。良質なたんぱく質は、アミノ酸スコアの高いものと言い換えることもできますが、食事ごとに調べる必要はなく、動物性の食品に含まれるたんぱく質はすべて「良質なたんぱく質」と考えて差し支えありません。動物性の食品を控えめに食べる、と考えればよいでしょう。
意外だと思われるかもしれませんが、米や小麦(パン、麺)にもたんぱく質が含まれています。割合としては動物性の食品よりも少ないですが、食べる量や回数が多いので、主食の中に含まれるたんぱく質をコントロールする(低たんぱく質ごはんや、低たんぱく質パンなどがある)ことで、低たんぱく質食を実施することもあります。
腎臓を守るための食事療法は大変! 必ず専門家に相談を
慢性腎臓病になってしまったら食事療法が不可欠ですが、腎臓を守るための食事療法は気をつかわなければならないポイントが多く、間違った食事制限では病状を悪化させることもあるため、食事療法の中でもずば抜けて対応が大変です。
食事療法は、個人の症状や原因により病状や治療が異なります。検診などで腎機能の異常を指摘されたら、医師や管理栄養士など専門家に相談し、食事指導などの治療方針に従うようにしましょう。
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執筆者プロフィール
平井 千里(ひらい ちさと)
小田原短期大学食物栄養学科 准教授。女子栄養大学栄養科学研究所客員研究員。女子栄養大学大学院 博士課程修了。名古屋女子大学 助手、一宮女子短期大学 専任講師を経て大学院へ進学。肥満と栄養摂取の関連について研究。前職は病院栄養科責任者(栄養相談も実施)。現在は教壇に立つ傍ら、実践に即した栄養情報を発信。
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