苦味低減化フェヌグリークの研究

カレー粉の主原料の一つであるフェヌグリークは、そのまま食べると強い苦味があります。この苦味を酵素の働きを利用して低減化したものの作成に成功し、苦味を低減したフェヌグリークのメタボリックシンドロームへの効果を研究し、その有効性の一端が明らかになってきました。

研究の概要

フェヌグリークとは、別名コロハ、メッチ、あるいはメティーとも呼ばれインドおよび中近東で広く栽培されているマメ科の植物です。古くからスパイスとして利用され、現在でもカレーパウダーやチャツネ、ソースなどに用いられています。近年、フェヌグリークには糖や脂質の代謝を改善することが報告され、糖尿病に対する改善効果を調べる研究が行われています。しかし、フェヌグリークは非常に強い苦味を有しており、日本人がそのまま食するのは困難です。そこで、このフェヌグリークの苦味を低減し食べやすいフェヌグリークの作成を目指しました。 具体的には、フェヌグリークの苦味成分を明らかにして、この成分を酵素の働きを利用して部分分解し苦味を低減することに成功しました。

さらに、得られた苦味低減フェヌグリークを、2型糖尿病モデルマウスに投与して、その有効性を評価する実験を実施しました(京都大学大学院農学研究科 河田教授との共同研究)。その結果、フェヌグリークの摂取により、血糖値と血中中性脂肪の上昇抑制と肝臓への脂肪の蓄積を防止する効果があることが明らかになりました。

フェヌグリーク

フェヌグリークの苦味成分と苦味低減化処理

フェヌグリークの苦味成分

フェヌグリークには様々な成分が含まれていますが、その中でもサポニンと呼ばれる一群の成分には強い苦味があることが知られています。このサポニン類の中でもフェヌグリークに最も多く含まれるプロトジオスシン(図-1)に強い苦味があることを明らかにしました。(1999年日本香辛料研究会で報告)

苦味低減化処理

苦味成分であるプロトジオスシンを含むサポニン類は、その化学構造にある特徴を持っています。それは、基本となる骨格に糖(ブドウ糖など)が複数結びついた構造です。この結び付いた糖の内、基本となる骨格の26位の位置に付いたブドウ糖が外れると、苦味がなくなることが分かりました。そこで、この糖を外すことを研究し、食品製造用酵素を用いて目的どおりブドウ糖を外し、苦味を大きく低減することに成功しました。(図-1)

プロトジオスシン構造と酵素処理

苦味低減処理 図-1 プロトジオスシン構造と酵素処理

苦味低減化フェヌグリークの有効性確認

2型糖尿病モデルマウスの体重および血糖値に及ぼす影響

苦味低減化フェヌグリークの機能性を評価するために、2型糖尿病モデルマウスであるKK-Ayマウスを用いて、苦味低減化フェヌグリークの摂取実験を行いました。

実験群は、脂質重量比35%の高脂肪食のみ与えたcontrol群、高脂肪食に苦味低減化フェヌグリークを2%添加した飼料を与えたフェヌグリーク群としました。摂取期間は35日間とし、その間与えた飼料の量は両群で揃えました。

苦味低減化フェヌグリークの摂取は、体重に大きな影響を及ぼしませんでしたが、血糖値は、フェヌグリーク群におきまして全てのデータポイントでコントロール群と比較し有意に低い値を示しました。(図-2)

体重グラフ

図-2 体重・血糖値グラフ

血糖値グラフ

4週間目では、コントロール群は病的なレベルの目安となる400mg/dlを超えますが、苦味低減フェヌグリーク群は、血糖値の上昇が抑えられ、正常値の範囲で推移しました。

苦味低減化フェヌグリークの血糖値上昇抑制効果の機序を明らかにするため、糖・脂質代謝に重要な役割を果たすことがわかってきている白色脂肪組織に着目しました。
フェヌグリーク群の白色脂肪組織では、糖・脂質代謝関連遺伝子を制御している遺伝子PPARγおよびPPARγの標的遺伝子の発現が有意に増加しました。(図-3)

図:白色脂肪でのPPARγ発現のグラフ

図-3 白色脂肪でのPPARγ発現のグラフ

2型糖尿病モデルマウスの血中中性脂肪、肝臓脂肪に及ぼす影響

試験飼料摂取35日目に、血中中性脂肪および肝臓の脂肪量について測定しました。血中中性脂肪濃度は、2%フェヌグリーク群ではコントロール群と比較して有意に低い値を示しました。(図-4)

血中中性脂肪グラフ

フェヌグリーク摂取群は、肝臓重量が減少していたことから、肝臓の組織学的解析を行いました。その結果、フェヌグリーク摂取群では、コントロール群と比較して、肝臓への中性脂肪蓄積が減少していました。(図-5)

写真:肝臓脂肪写真

図-5 肝臓脂肪写真

さらに、実際に肝臓中性脂肪含量を測定したところ、フェヌグリーク摂取群では、コントロール群に比べ肝臓中性脂肪含量が有意に減少し、苦味低減化フェヌグリークは脂肪肝を抑制することが示されました。(図-6)

図-6 肝臓中性脂肪グラフ

図-6 肝臓中性脂肪グラフ

フェヌグリークの脂肪肝抑制効果の機序を明らかにするために、肝臓での脂質代謝関連遺伝子の遺伝子発現量を調べたところ、FAS、SCD-1およびGPATといった脂質合成系酵素の遺伝子発現量は減少しました。また、これらの遺伝子の転写を調節しているSREBP-1cの遺伝子発現量も、フェヌグリーク摂取により有意に減少しました(図-7)。

図:肝臓での脂質合成関連遺伝子発現のグラフ

図-7 肝臓での脂質合成関連遺伝子発現のグラフ

苦味低減化フェヌグリークは、メタボリックシンドロームにおける糖脂質代謝異常改善効果を有することが示唆され、糖尿病、延いてはメタボリックシンドロームに対して非常に有効な食材であることが示唆されました(2007、2008年日本栄養・食糧学会で報告)。